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クリープハイプの「不思議な絆」にファンならずとも共感できる理由

2019/12/8(日) 7:00配信

Book Bang

 自意識をときに暴力的に掻き回し、そこから生まれた切実な言葉を歌や小説に仕立て上げる尾崎世界観。彼をフロントマンとする4ピースバンド、クリープハイプが現メンバーになって丸十年になるのを前に、ドラムの小泉拓、ベースの長谷川カオナシ、ギターの小川幸慈、そして尾崎がこれまでの軌跡を個別に語った。

 ファンならずとも興味深く、のめり込んで読めるのは、バンドという共同体が家族、友人、会社、すべての性格を併せ持っているからだろう。どんな関係にも存在する危機や諍い、停滞と回復の過程が語りの中に表出する。〈人間どうしのディスカッションを充分にしないまま、メジャーデビューをしてしまったところもあった〉と長谷川は言い、小泉は〈尾崎くんの声の調子が悪くなった時には、おれのドラムも調子が悪かった〉と述べる。尾崎との付き合いが最も長い小川は、カリスマ的引力を持つ尾崎に対し〈おれたち三人は、けっこう「へんな遠慮」をしてしまっていた〉と回想する(小泉や小川の一人称が「ぼく」と「おれ」の間で揺れ動くのがいい)。尾崎は〈「信じる」というより、「諦める」ことを通して、つながりができてきた〉と十年の道のりの現在点を表現する。

 インタビューが時系列に並べられていることで、裏話、打ち明け話の集積に留まらない、連作短編のようなスリリングな効果が生まれている。共通の経験も、語り手が変わることで違う側面を見せるからだ。「クリープハイプ」に対する尾崎の意思表明とも言える二〇一六年の曲「バンド」の歌詞に、当事者である自分たちが救われた、うれしかったという三人の告白には胸が熱くなる。メンバーが木村俊介氏という稀有な聞き手を得て、気持ちを言語化できているということの喜びも伝わってくる。

〈絶対にわかり合えないからこその、安心感と信頼感がある〉と尾崎は言う。そんな「不思議な絆」の正体を知ることのできる一冊だ。

[レビュアー]北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

新潮社 週刊新潮 2019年12月5日号 掲載

新潮社

最終更新:2019/12/8(日) 7:00
Book Bang

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