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【書評】組織の日本と個人の韓国:伊藤亜人著『日本社会の周縁性』

2019/12/9(月) 15:30配信

nippon.com

泉 宣道

東アジアの中華文明圏の“周縁”に位置する日本社会の特質とは何か。本書は「近くて遠い国」といわれる韓国との様々な対比で日本の特殊性、日本人のアイデンティティを再認識させてくれる。混迷を続ける日韓関係を考えるうえでも示唆に富む。

日本と韓国の社会「大きな差」

著者は東京大学名誉教授で、専攻は文化人類学、民俗学。琉球大学や早稲田大学で教授を務め、ハーバード大学客員研究員、ロンドン大学SOAS上級研究員、ソウル大学招聘教授なども歴任した。1970年代初めから韓国に住み込むなどフィールドワークを続け、両班(ヤンバン)の旧家に居候したこともある韓国研究の専門家である。

日本論はこれまで数多く出版されてきたが、本書の特色は主に韓国の社会・文化と比較しながら、日本社会の特殊性、日本人の思考や行動様式を浮かび上がらせた点だ。「身近な他者の目を通して我が身を振り返る」という手法である。

日本と韓国は「互いに自文化優越意識と民族的な自尊心が災いして対話がうまくゆかず、感情的に対立することも多い」。東アジア文明の大伝統を共有しながらも「土着の文化伝統を基盤として、それぞれの社会・文化伝統には様々な特質が見られる」。しかも比較すればするほど「意外に大きな差」がある。

著者は韓国で長年観察してきた実体験があるだけに、具体的なエピソードも豊富だ。文芸、民芸、舞踊、武道、食文化、空間認識、歴史観などを通じて日本の「周縁性」という特質を明らかにしている。

日本の贈答文化、趣味、おたく、アニメ、お笑い、霊が乗り移る憑依(ひょうい)、形見などについての記述も興味深い。客観的で冷静な筆致で日韓を比較しており、日本の周縁性をむしろ肯定的に描いている。

東アジア文明圏の日本の位置

中華文明の中心であった黄河中流域の中原(ちゅうげん)の地から四方を見ると、日本列島は東夷(とうい)の外れに位置する。3世紀末の魏志倭人伝(『三国志』魏志の東夷伝倭人条)によると、当時の中原の漢人たちにとって日本社会は野蛮に映り、「朝鮮半島よりさらに周縁の民として記されていた」という。

中華文明圏、あるいは東アジア文明圏は、人間を中心とする秩序が基本とされる。体系的であり、論理的で、抽象的な概念や精神の内面性などを重視する。これに対し、地理的にも周縁に位置する日本社会は非体系的、多元的、包括的な思考伝統、実践志向、経験主義が根強い。

東アジア文明圏で社会統合の基礎となったのは、漢字という書記技術の共有だった。そして儒教や仏教の受容であった。

「朝鮮半島では漢文に触れる機会は日本より早く、しかも広範囲に及んだと思われる。漢字識字層も日本より早く成立し、その水準も高かった」

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最終更新:2019/12/9(月) 15:30
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