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金栗×三島×嘉納の挑戦がコンゴ代表の2人へ 国歌斉唱を通して繋がる『いだてん』のオリンピック

2019/12/9(月) 11:54配信

リアルサウンド

 12月8日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第46回「炎のランナー」。「スポーツと平和の祭典」であるオリンピック。日本人初のオリンピック選手となった金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)の姿が思い出される演出が印象的だった。しかし、それと同時に、国や平和を背負う選手たちや若者の苦悩も心に刻まれた。

【場面写真】聖火台の前で涙ながらに訴える坂井(井之脇海)

 東京オリンピック開催年である1964年。岩田(松坂桃李)は聖火リレーの最終走者として、1945年(昭和20年)8月6日、原爆投下の日に広島で生まれた青年・坂井義則(井之脇海)を提案した。だが、日本政府はアメリカの対日感情を刺激することを恐れていた。そのため、最終走者の話も、アメリカ統治下の沖縄で「日の丸」を掲げる話も進まない。いてもたってもいられなくなった田畑(阿部サダヲ)は組織委員会へ乗り込んだ。解任されてから1年半。組織委員会に現れた田畑は力強く訴えかける。

「アメリカにおもねって、原爆への憎しみを口にしえないものは、世界平和に背を向ける卑怯者だ!」

 この台詞の後、足早に立ち去る田畑を東(松重豊)が引き留めた。東は「またいつでもいらしてください。席はご用意します」と言うと、深々と頭を下げた。田畑は頷いた後、川島(浅野忠信)に代わり、オリンピック担当大臣となった河野(桐谷健太)を見つめる。2人の間に言葉はない。それでも、小さく頷き合う姿から「スポーツと平和の祭典」を成功に導こうとする2人の意志が伝わってくる。朝日新聞で同期の2人が立場を変え、再び同じ舞台に揃った姿にはこみ上げてくるものがある。

 ところが、オリンピックを前日に控え、田畑は深く反省することになる。マスコミは、最終走者である坂井を「平和の申し子」「アトミック・ボーイ」と呼び、大々的に記事で取り上げた。だが、当の本人の顔は浮かない。本番前日、元気なく走る坂井に田畑が「8月6日!」と呼びかけると、坂井は涙を流しながら叫ぶ。

「8月6日じゃありません! アトミック・ボーイでもない! 僕は坂井です! 坂井義則、オリンピックの選考会で負けた、坂井です!」

 坂井の言葉にハッとさせられる田畑。「選手第一」を意識してきた田畑は、オリンピックの重圧に押しつぶされる選手たちを何人も見てきた。けれど「原爆投下の日に生まれた青年が聖火を掲げて走る」画に気を取られ、平和を背負わされた若者の苦悩に意識を向けられなかった。どの時代でも描かれてきた苦しみ。金栗も三島も、人見絹枝(菅原小春)も前畑秀子(上白石萌歌)も、オリンピックに出場する選手は皆、国民の期待を背中に戦ってきた。昨今においても、選手たちは同様のものを背負って戦っているはずだ。想像を超えたプレッシャーと戦っているのだと、改めて気づかされる瞬間だった。

 オリンピック開催直前のハプニングがいくつも描かれた回とはいえ、感慨深いシーンも忘れてはならない。一番最後に参加を表明し、一番早くに日本へ到着したコンゴ共和国の選手団のシーンである。

 初めてのオリンピックに参加するために、たった2人で日本へやってきた陸上選手のヨンベ(アリオン)とウランダ(マックス)。2人は選手村で食事を出されると、スプーンを手渡す村上(黒田大輔)の手を制止して「練習してきた」と箸で食べ始める。また森西(角田晃広)が必死で聞き取ったコンゴ共和国の国歌を演奏すると、2人は胸を張って歌う。開催国の作法を習い、地球の裏側からやってきたヨンベとウランダ。彼らが歌う国歌に合わせて映し出されたのは、1912年、ストックホルムオリンピックにたった2人で出場した金栗と三島の姿。日本のオリンピック参加が金栗と三島の2人から始まったように、コンゴのオリンピック参加はこの2人から始まるのだ。

 スポーツという言葉すら知られていない時代に、ストックホルムオリンピック出場に奮闘する嘉納治五郎(役所広司)の姿が描かれた第1回。そんな治五郎の導きが、金栗と三島という日本人初のオリンピック選手を生み、その物語は1964年の東京オリンピックへとつながった。オリンピックの光と影を丁寧に描き、「韋駄天」のように時代を駆け巡ってきた今作もいよいよ次週が最終回。「時間よ止まれ」のタイトルが表すものはなんだろうか。

片山香帆

最終更新:2019/12/9(月) 11:54
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