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「孤独はわたしそのもの。孤独に動かされてわたしは書いてきた」ピュリツァー賞作家ジュンパ・ラヒリが語る

2019/12/9(月) 12:00配信

Book Bang

2012年、家族とともにニューヨークからローマへと移住したラヒリ。イタリア語による初エッセイ『べつの言葉で』を経て、待望のイタリア語による長篇小説『わたしのいるところ』を昨年発表。訳者による解説を交えた新刊インタビューです。

聞き手:カロリーナ・ジェルミーニ
翻訳・注解:中嶋浩郎

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イタリア語による初の長篇小説『わたしのいるところ』の主人公は、ローマと思しき街にひとり暮らす45歳の独身女性。研究者の彼女は大学で教え、子ども時代から同じ地区に住んでいる。なじみの店や場所に身を置いていても、彼女はいつも孤独だ。孤独であることが、仕事ででもあるかのように。

 名前を取り去る

――『わたしのいるところ』では場所にも人物にも名前がありませんね。

 少し前から、イタリア語で書くときにはすべてをより抽象的、より開かれたものにするために、特殊性をできるだけ排除しようとしてきました。わたしが執筆を始めたころは、あらゆるものごとがアイデンティティーを中心に回っていました。ある名前をもつことをめぐって一冊の本を書いたこともあります[訳者:長篇小説『その名にちなんで』のこと。「ゴーゴリ」と名づけられたインド系アメリカ人の少年とその家族の物語]。名前は一つのレッテルで、何かを説明するけれど、生まれや母語と同じように、自分で選ぶことができません。でも、一人の人間の本質は、押しつけられたものとは別のものですから、そこに衝突が生まれます。この衝突に興味があるんです。

 いまわたしは、すべてをより抽象的なものにしようとする段階にいます。わたしにとって名前を取り去ることは、ある種の重荷からの解放なのです。『わたしのいるところ』では、ローマのようでローマでなくてもかまわない、ある町の名前を取り去っています。名前がなければ、境界ももはや成り立ちません。何かを取り除くことで、いろいろなものの意味が広がる。わたしはこの穴だらけの開かれた状態が気に入っています。

――主人公は自分をさらけ出したい欲求と自制する必要とのあいだでつねに揺れ動いています。外からの刺激を求めながら、そこから逃れなくてはといつも感じていますね。

 ええ、それはこの本に出てくる数多くの矛盾の一つです。あらゆる意味で揺れ動いている作品なんです。ここで描かれる町にも二つの顔があって、生き生きしていながら死んでもいる。主人公は、外にでかけてはまた帰宅します。それが彼女の日常ですが、たぶんこれは誰にでも当てはまるでしょう。

 わたしたちは自分の内と外の両方に空間をもっています。二つの空間の境界を突き止めたい。彼女はいつも境にいます。外に引きつけられ、それからまた内側に引っ込むのです。

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最終更新:2019/12/10(火) 15:50
Book Bang

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