ここから本文です

島根女子大生バラバラ殺人事件 猟奇的事件に翻弄された人々

2019/12/10(火) 8:02配信

FRIDAY

2009年に島根県で発生した、女子大生バラバラ殺人事件。地方都市での猟奇的事件とあって、当初、犯人はすぐに見つかるはず、と楽観視されていた。しかし、事件解決は難航を極め、結果、7年もの月日を要することになった。

島根女子大生バラバラ殺人事件 難航した猟奇殺人犯特定のウラ側

2009年10月26日、島根県浜田市でアルバイト先のショッピングセンターから帰宅途中に行方不明となった、大学生のA子さん(死亡時19)。彼女の切断された遺体が、同年11月6日から19日にかけて、広島県北広島町の臥龍山の山頂付近で発見された。

この「島根女子大生バラバラ殺人事件」が解決したのは約7年後の16年12月のこと。殺人・死体損壊・死体遺棄罪で、松江地検に書類送検されたのは、島根県益田市に住む住宅設備会社勤務・矢野富栄(死亡時33、被疑者死亡で不起訴処分)。矢野はA子さんの遺体の一部が最初に発見された2日後、山口県内の中国自動車道で、自身の運転する車がガードレールに接触した事故により、助手席に乗っていた50代の母親とともに死亡していた。

この事件について、発生当初は犯人の早期逮捕に関する楽観論が流れていた。というのも、現場となった浜田市は人口わずか6万人あまり。A子さんは同年4月に香川県からやってきたばかりで、交友関係も限られていることなどから、重要参考人の絞り込みは容易と見られていたのである。大学の学生寮に住んでいた彼女の同級生は語る。

「事件が起きてすぐに寮生全員が大学内の一室に集められ、警察の人に事情を聞かれました。そこではA子さんが行方不明になった時間に何をしていたのか、バイト先はどこか、帰り道のルートはどこを通るかということを細かく聞かれ、彼女のことで知っていることはないかと尋ねられました」

また同寮では、A子さんの部屋を捜索するとともに、携帯電話の履歴、サーバーに残されたメールの内容などの調査が行われ、交友関係の割り出しがなされた。それらと並行して管内の性犯罪前歴者など、リストに挙げられている人物の行動確認、事情聴取なども進められている。島根県警担当記者は説明する。

「浜田市中心部から臥龍山のある北広島町に向かう国道186号線の金城という地区には、通過車両のナンバーを記録するNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)が設置されていました。交友関係以外にも、そこを10月26日から11月6日までの間に通過した車両について、順次捜査が行われたのです」

こうした過程で、多くの人物が捜査対象となった。広島県北広島町で一人暮らしをしながら林業関連会社に勤めるBさん(取材時30代前半)は、A子さんが行方不明になった日の午後5時半頃に、北広島町から浜田市に向けて車で移動しており、午後10時半ごろ北広島町に戻ってきた。そのため彼は、次のような経験をしている。

「最初、11月の半ば過ぎに、勤め先の会社から自分に電話があり、『警察が事情を聞きたいと言っているから、知っていることを全部話すように』と言われたんです。しかし、それからしばらくは、なんの動きもありませんでした。ところが12月に入ったら、会社帰りとか移動のときに、広島ナンバーの銀色の車が後をつけてくるようになったのです。気づいてから10日間くらいは連続しました。こちらがスピードを落としたら向こうも落とし、飛ばしたら向こうも飛ばす。さすがに気持ち悪いので車を停めて話を聞こうとしたら、そのまま追い越していくのです」

警察車両と思しきその車は、物陰で様子を窺い、後をつけてきていたという。事前に会社を通じて警察がマークしていることを伝え、焦った相手が証拠隠滅や逃亡を図ったりしないか、行動を確認していたものと見られる。やがて島根・広島県警合同捜査本部の捜査員が、Bさん宅に初めてやって来たのは12月23日のこと。

「捜査員2人が自宅にやってきて、10月26日に浜田市内で何をしていたのか聞かれたんですが、はっきりと記憶していないので、もし浜田市に行くとすればパチンコだと答え、店名を伝えました。それからチェーンソーや鎌といった仕事道具と風呂場を見せて欲しいというので見せました。捜査員は時間にして20~30分程度で帰っていきました」

続いて捜査員はその2日後にも家に来た。

「パチンコ屋の防犯カメラが1週間分しか記録されてなかったみたいで、ほかの立ち寄り先を尋ねられ、コンビニに立ち寄ることがあると話しました。その日、捜査員が帰ってから電話がかかってきたのですが、『仕事で怪我をしたことはあるか?』という質問でした。それからもう一度電話がかかってきて、『ホラー映画を見るか?』と尋ねてきたので、(米ホラー映画の)『Saw5(ソウ5)』のDVDを借りて見たことがあることを話すと、続いて『人間の肉を食うビデオは見たことある?』と聞かれました。もちろん否定しました」

また、A子さんと同じ大学に通うCさん(取材時20歳代)の自宅にも、11月下旬に広島県警の刑事2人が突然やってきている。

「私の車が10月26日の夜遅くに金城を通ったため来たようです。その日の行動について聞かれ、風呂場を見せてくれと言われました。後日、私の証言通りに学校のパソコンを使用した形跡と、帰りに立ち寄ったコンビニでの映像があり、アリバイが証明されました。そういえば、刑事たちはとくに家にある刃物を気にしていました。ギザギザしたノコギリには一切関心を持たず、ナタや包丁だけを気にしていたことから、その手の鋭利な刃物で遺体を切断していたのだと思いました」

そんな最中、合同捜査本部が沸き立つ出来事も起きていた。かねてからマークしていた30代の男が、10年4月に浜田市内の大型店舗内で女子中学生をデジタルカメラで盗撮し、島根県迷惑行為防止条例違反容疑で逮捕されたのだ。その男はA子さんの事件についても事情を聞かれており、自家用車内の指紋採取も受けていた。前出の記者は振り返る。

「我々もその男は捜査本部がマークを外していない人物であることを知っていたので、家宅捜索をすることで何か出てくるのではないかと期待し、逮捕の一報には緊張しました。しかし、結果としてはシロでした」

こうした出来事と並行して、捜査は浜田市や周辺市のあらゆる範囲に拡大していた。浜田市のスクラップ業者は私の取材に言う。

「事件のあとで、飲食店で知り合ったA子さんと同じ大学の男子学生の車の廃車手続きをして、スクラップにしたことがあるんです。そうしたら、半年後くらいに警察の人が来ました。その学生は県外から来ていましたが、県外の人とどうして知り合ったのかを尋ね、『なにか変な臭いがしなかったか』や、『車内に血痕はなかったか』、などをしつこく聞かれています。その後も警察からは電話があり、同じことを改めて聞かれました」

まさにしらみつぶしの捜査だったわけだが、そのことが原因で風評被害を受けた人もいる。事情を知る関係者は明かす。

「被害に遭ったとき、A子さんは次のアルバイト先が決まっていて、それを紹介したのは同じ大学の5年生の男子生徒でした。時給などが良かったことから、A子さんはすぐに働きたいと話していたのですが、それまでのバイト先の店長が、代わりのバイトが見つからないから2週間だけ仕事を辞めるのを待ってほしいと彼女に頼み、その最中に悲劇が起きたのです。A子さんを新たなバイト先に紹介した男子生徒は、警察からかなり疑われたようで、何度も事情聴取に呼ばれていました。また、校内でもそうしたことが噂になってしまい、結局、6年生になって大学を中退しました」

この事件の捜査に要した約7年という歳月は、周囲の人々の生活に少なからず影響を与えていたのである。

取材・文:小野一光
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

FRIDAYデジタル

最終更新:2019/12/10(火) 8:02
FRIDAY

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事