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『ジャンプ+』はなぜ成功したのか? 『SPY×FAMILY』など、アプリ発の話題作を生み出す“施策”

2019/12/10(火) 8:10配信

リアルサウンド

 2019年の『ジャンプ+』は熱かった。

 『DEATH NOTE』の新作や『歯医者さん、あタってます!』といった読み切りがバズりにバズり、アプリオリジナル連載作品『彼方のアストラ』がアニメ化、『左ききのエレン』がTVドラマ化されて話題になり、さらに『SPY×FAMILY』(メイン画像)は単行本が2巻で35万部を超えるヒットとなった。

 Twitter上での編集者、編集部アカウントの情報を引用しよう。

「ジャンプ+、先週のWAUが「DEATH NOTE」新作読切掲載時の最高値を更新して過去最高に。閲覧数がずっと上昇傾向なことに加えて大爆発した読切「歯医者さん、あタってます!」でwebからの流入数が跳ね上がった。この調子でMAUの最高値更新にも期待。」(中路(ジャンプ+編集者) 10月8日)

「【本日配信】読切「歯医者さん、あタってます!」わずか15時間で驚異の100万閲覧突破…!!ツイッタートレンドの1位を一時的に「歯医者さん」が獲得するという幸せ、ありがとうございます!!」(少年ジャンプ+ 10月5日)

「今年に入って「彼方のアストラ」「SPY×FAMILY」と大きな賞をとる作品が出てきました。全体の数字が好調なのもジャンプ+を引っ張れる作品が増えてきたのが要因。話題になりそうな期待の大型新連載もまだまだ控えているので、今後も最強の新作媒体として投資を強化してきます。」(中路(ジャンプ+編集者) 9月13日)

 この成功は、集英社がもともと持つ「おもしろいマンガを作る力」に加えて、アプリ/ウェブでマンガを読まれることを前提とした数々の施策(戦略)が掛け合わされたことによって生まれている。

■流入と定着

 マンガアプリに必要なのは「流入」と「定着」である。新しく(または久しぶりに)使ってもらうユーザーを増やすこと。そして、入ってきてくれた人に、使い続けてもらうこと。

 こういう視点から、『ジャンプ+』のコンテンツの配信方式を見ていくと、めちゃくちゃよく考えられていることがわかる。

 『ジャンプ+』が無料で作品を読めるようにしている作品内容と配信スタイルの組み合わせは、4つある。

 一つめは「週刊更新の再配信もの」。『ドラゴンボール』や『NARUTO』など過去の人気作品(または『ONE PIECE』『東京喰種』のような長期連載作品)の再配信。これは最初の3話以外は毎週3話分が無料で開放されている。たとえば今週4、5、6話が読めるとすると、来週は5,6、7話が無料で読め、4話は読めなくなる。その次の週には6,7,8話が読める、というものだ。

 二つめは「初回無料のアプリオリジナル連載作品」。『SPY×FAMILY』『彼方のアストラ』『花のち晴れ』などの『ジャンプ+』が初出のアプリオリジナル連載作品。これらは最初と最新の3話以外は「初回無料」で読める。読み返したければ課金するかコミックスを買うしかない。

 三つめは「初回無料のコミカライズ連載」。『HELLO WORLD』『屍人荘の殺人』など映像作品やゲームのコミカライズ連載(ジャンプ+初出のアプリオリジナルだが集英社のIPではないメディアミックス案件)。これも初回無料である。

 四つ目は「無料の読み切り」。『DEATH NOTE』や『歯医者さん、あタってます!』などの読み切り作品である。

 これが組み合わさるとどうなるか? 「読んでいなかった名作を読んでみたい(または読み返したい)」「話題のメディアミックス作品だから読んでみよう」「バズっている読み切りを読んでみよう」という理由で「流入」需要を喚起する。

 そして「毎週1話ずつ更新だから『ドラゴンボール』読むために来週も立ち上げるか」「アプリオリジナル連載作品も初回無料だから読んでみよう」と誘導することで定着がはかられる。こうしてアクティブユーザー数が増えることになる。

 さらには利用時間(滞留時間)を増やす施策もある。

■一気読み需要に応えるという独自性

 『ジャンプ+』は、かつて序盤数話と最新数話以外は有料(真ん中を読みたければ課金)というモデルだった。ところが2019年4月2日にアプリが大幅リニューアルされ、アプリオリジナル作品に関しては、真ん中の話数でも「初回無料」に変更された。これによって各作品ごとに一気読みが可能になった。

 これの何が読者にとっては嬉しいのか? 二つある。一つめは「没頭して読みふけりたい」需要に応えてくれること。二つめは「後追いでも一気に追いついて、連載最新話の話題に加われること」である。

 マンガには「スキマ時間に暇つぶしに読みたい」という需要以外にも、「没頭して読みふけりたい」という需要がある。「初回無料」はそれに応えるしくみである。

 『ジャンプ+』以外のほとんどのマンガアプリは「待てば無料」モデル(23時間で1話無料)かチケット制(1日2回4話ずつ無料で読める)を採用している。これは「おもしろくて続きが読みたいのに少しずつしか読めない」というフラストレーションを読者に与え、課金や動画広告の視聴に誘導するものだ。つまり、一気読み需要には応えていないし、しくみ上、応えられない(一気読みしたいなら課金するかコミックスを買え、という選択を読者に迫る)。

 しかし『ジャンプ+』は「初回無料」にしたから、一気読みできる。そしてそもそもジャンプ編集部&作家には、何回も読み返したいと読者に思わせるような伏線の妙があり、絵が美麗または決めゴマが秀逸な作品をつくる能力が高い人たちがもともと多い。すると、初回無料につられてアクティブユーザーが増えるだけでなく、結果、「うーん、もう一回読みたいからコミックス買うしかないな」という購買にもつながる。当たり前だが、おもしろいマンガはちまちま読むより一気に読んだ方がずっとハマる可能性は高まる。そしてこれまた当然ながら、一気読みできたほうがアプリの利用時間(滞留時間)は長くなる。

 もうひとつ読者にとって嬉しい点は、たとえば友だちから「『サマータイムレンダ』めっちゃおもしろいから読んで!」と言われるなどして情報を得たときに、一気に追いつくことができることだ。1日1話あるいは1日8話ずつ読んでも、長期連載作品だとなかなか最新話に到達できない。LINEマンガや『ジャンプ+』上でも行われている5巻無料、10巻無料キャンペーンでも一気読み需要はある程度満たされるが、10巻無料キャンペーンをやるような作品は20巻以上出ていることが多く、10巻まで読んだところで最新話・最新巻の話題に参加することはできない。すると、薦めた側もネタバレを気にして話題にしにくい。

 ところが最新話まで一気読みできれば、その後は連載が更新されるごとに最新話をネタに会話する楽しさが薦めた側と薦められた側双方に発生する。

『ジャンプ+』はアプリオリジナル連載を「初回無料」にしたことで、読み切りと比べるとバズを起こしにくい連載作品の話題醸成、読者のコミュニケーション欲求を満たすことに成功している。最近の連載作品『SPY×FAMILY』や『地獄楽』の盛り上がりは、作品のもつ圧倒的なおもしろさだけでなく、こうしたシステム変更に後押しされた部分も大きいだろう。

 マンガアプリのユーザーは「おもしろいものをストレスなく、ちょうどいい分量触れたい」というニーズを持つ。日々のスキマ消費にも、時間ができたときの一気読みにも対応してほしいと思っている。また、自分に合った作品を求めているし、同時に、話題の作品に触れて会話に参加したいという欲求もある。

 『ジャンプ+』は、読み切りや週刊連載で短時間消費に応える。さらに「初回無料」によって一気読みもできる。くわえて、多数の連載作品から自分に好みの作品を選べるだけでなく、SNSでの話題性を意識した読み切り作品やメディアミックス作品を提供している。そして「初回無料」によって読者はいつでも話題のアプリオリジナル連載作品の最新話に追いつけ、会話に参加できる。

 こうして気づけば『ジャンプ+』は数あるマンガアプリの中でも、立ち上げる頻度も利用時間も長いものになっていたのだった……(個人の感想です)。いやあ、マンガって本当にすばらしいですね。

飯田一史

最終更新:2019/12/12(木) 0:19
リアルサウンド

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