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英国の人気劇作家の最新作が日本で世界初演される運のよさ――『FORTUNE』

2019/12/11(水) 8:10配信

otocoto

10月に、カナダの人気劇作家ニコラス・ビヨンが、自分の戯曲を翻訳上演した日本のプロデュース・カンパニーのために、(依頼されたわけでもないのに)新作を書き下ろしたという僥倖というべき椿事があったばかりですが、今度はイギリスの人気劇作家サイモン・スティーヴンスの新作が、日本で世界初演されることになりました。ついてます!

サイモン・スティーヴンスは、オリジナルの劇作から古典戯曲の翻訳、小説の脚色、戯曲執筆の指導など、非常に柔軟かつ精力的に創作活動を行う、現代英国を代表する売れっ子劇作家だ。日本ではこれまで『ハーパー・リーガン』(2007年)、『千に砕け散る空の星』(3人の作家による共作、2012年)、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドンの同名小説を脚色、2014年)ほか数本が翻訳上演されている。 
『スリー・ビルボード』など映画も手がける劇作家マーティン・マクドナーとは同い年で、残虐さを厭わない描写など、共通点を指摘されることもあるようだ。が、主に家族にかかわる問題を取り上げながら、心理的ホームドラマにならず、大胆な飛躍を行って世界を広げてゆく作風は独特で、演劇だからこそ可能な、視覚的でフレキシブルな表現とも、とても相性がいい。

『FORTUNE』は、そんなスティーヴンスの最新作。あらゆる望みをかなえる代わりに悪魔に魂を引き渡す契約を交わす『ファウスト』の世界を、現代のロンドンに移し、老齢のファウスト博士が、41歳の成功した映画監督フォーチュンに置き換えられている。まるで、スティーヴンス自身を重ねたかのような設定だ。ルーシーという名のチャーミングな女性の姿をした悪魔によって、フォーチュンのリアルな日常が、次第に超常現象的に歪んでゆく。

製作発表記者会見で来日したスティーヴンスは、「『恐怖』が、私が作家として物語を紡ぐ際の起点になっています。自分が理解できない、こわいと思うものについて探究したいのです。いま人類は、経済的にも環境的にも裂け目にいて、今後10年以内に何が起こるか、わからないような状態。もしかしたら私たちは、この裂け目から永久の業火の中に落ちてゆくのかもしれない。(その恐怖に)立ち向かい、理解するための作業として、演劇がある。いまほど『ファウスト』という物語が必要と思える時はないでしょう」と語っていた。

このタイムリーな野心作を演出するのは、長年にわたってスティーヴンスと共働してきたショーン・ホームズ。自在に飛躍するスティーヴンスのテキストを、ビジュアル効果も駆使しながらヴィヴィッドに立ち上げる手腕で、作家からも絶大な信頼を得ている。今回は、俳優のムーブメント等のステージングを担当する小野寺修二ら、日本のスタッフとの共同作業で、稽古場では、次々に日本語の語彙を増やして、スタッフ・キャストを驚かせる日々。サイモン・スティーヴンスをもっともよく知る演出家のひとりとして、その世界観の具現化に期待が集まっている。

英国の劇作家の新作を、英国の演出家で、日本のキャスト・スタッフにより世界初演するというのは、おそらく初めての事例ではないだろうか。スティーヴンスは、以前ドイツとエストニアと英国三者のコラボで上演し、大反響を呼んだ自作『スリー・キングダムズ』(2011)以来の興奮だと語っていた。確かに、森田剛主演、吉岡里帆初共演という話題もさることながら、単に外国の演出家を招いて既成の戯曲を上演するのとはいささか異なる高揚感が、会見場には漂っていた。

スティーヴンスやホームズは、このように海外に対してオープンで、多様な文化と人脈を積極的に開拓していく気概を持つタイプの演劇人であることがわかったのも、収穫だった。「演劇の国」の誇りが前面に出て、閉鎖的なイメージが強かった英国演劇界も、少しずつ変わり始めている。遠目にそう見えなくもなかったけれど、日本にいてそれが実感できるとは思わなかった。 
日本の演劇界側も、こうしたちょっとタナボタ的な好機をしっかりものにして、ふつうに対等なパートナーとして、当たり前に各国の優れた演劇人とコラボをすることを目指したい。

文・伊達なつめ

最終更新:2019/12/11(水) 22:40
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