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スペースに価値をつける「有料書店」という取り組み-東京・六本木「文喫」

2019/12/11(水) 15:28配信

nippon.com

三宅 玲子

日本で初めての有料書店が東京・六本木に登場したのは2018年12月11日。それから1年、1500円もの入館料を支払ってでもやってくる「本好き」たちは引きも切らない。有料書店の試みは、今後書店が生き残っていくための課題を示すものである。

入館料をとる書店

 幾重にも書棚が並ぶ空間は「選書室」と名づけられている。棚にはジャンルを示すサインがある。「文学」「哲学」「旅」「経済」「建築」などだ。

 棚は徹底してテーマによって編集されている。文庫本かハードカバーかといった分け方はない。作家ごとにまとめられてもいない。

 デコボコと異なる判型の本が並ぶ棚を眺めていくうちに、選書者の企みに誘われ本の森に迷い込んでいる、そんな錯覚に陥った。書名の流れに目を託すひとときで、本を一冊読んだかのような充足感を覚えた。

 ここは東京・地下鉄六本木駅の真上の書店「文喫」。2018年12月に開業した。同じ場所にはその半年前までよく名を知られた老舗書店が営業していた。
 新しく現れた「文喫」は日本で初めての有料書店だ。

 朝9時に「文喫」は開店する。六本木通りに面したガラス扉から入館し、コンシェルジェで1500円(土日祝は1800円、いずれも税別)の入館料と引き換えに入館バッジを受け取ると、階段を上がった先に広がる「選書室」に足を踏み入れることができる。

 3万冊の本が収められた本棚が並ぶゾーンの脇には喫茶室。コーヒーと煎茶は無料で何杯でも飲むことができる。ハヤシライスやスパゲッティなどの軽食やケーキ、そしてビールやナッツの有料メニューもある。
 テーブル席の奥の窓際には、ごろりとくつろぎながら本を広げられるスペース。階段を上がると吹き抜けの空間に向かって横一列にデスクがある。ひとりずつの手元に読書ランプ。後頭部まで伸びる椅子の背もたれは長時間の読書を支えるためのものだ。
 落ち着いた空間に、コーヒーの香りが漂う。席は奥から何人か埋まっている。30代と思しき男性が美術書や経済分野の解説本と料理本をデスクに積み上げた。
 入館者は100坪の店内に90ある椅子やソファで、食事をしたりコーヒーやビールを飲んだりしながら3万冊の蔵書を閲覧することができる。

「年間1000軒もの書店が閉店に追い込まれる時代に有料書店なんて、そんなバカな……」と思ってしまうのは、素人考えであるらしい。
 オープン初日から3日間、90席の読書席は満席状態だった。仕事や勉強のために利用する人が多いのでは、という店側の予想は外れ、ほとんどの人たちが本を眺め読書を楽しんだ。

「ああ、こういう場所が求められていたんだなと思いました」
 店長の伊藤晃さん(37)が振り返った。
「売上は非公開なんですが、予想以上の数字です」
伊藤さんは、自信ありげである。

 一般書店の場合、売上は「本」のみだが、文喫の売上品目は「本」「喫茶」「入場料」の3つある。
 書籍の粗利は通常は22パーセント程度が基本である。一般書店が利益を上げるには売上冊数で勝負するしかない。文喫では粗利のよい「喫茶」に加え、「入場料」はまるまる利益となる。これらの利益を積むと、全体の粗利率は通常の書店粗利よりだいぶ上がる。1日あたりの入場者数も非公表だが、平均滞在時間は4~6時間で、数百人。週末は入場待ちの列ができる。

 1500円の入場料を払ってでも行きたいと本好きに思わせる書店であるために、ゆったりとした空間づくりと、文喫らしい選書を重視している。それは同時に、入場料というポケットがあるからこそ、思い切った選書ができるということでもある。

 棚は「本との出会い」を念頭に設計されている。1タイトルあたり1冊を原則に3万冊がギュッと詰まった選書室だ。選書するスタッフは各テーマに深い愛着と知識を持った人たちである。
「演劇の棚は劇団で俳優をやっているアルバイトスタッフに任せていますし、建築の棚は建築学科の学生がアルバイトで入ってくれています。ふつうの書店では到底置くことのできない高額な専門書もうちでは認めています」
 その結果、一般書店では10年かかっても売れないような3万円もする美術書が、棚に並べた翌日に売れた。そんなことが何度もあった。
 通常の書店の客単価が平均1000~1200円に対し、文喫では3000円を超えるという。

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最終更新:2019/12/11(水) 15:28
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