ここから本文です

なぜ裁判所は「育児放棄した夫」を評価?ドロ沼離婚の結末は…

2019/12/11(水) 9:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

いつの時代にも尽きない「離婚トラブル」。離婚を決心するだけでも大変なのに、相手が非を認めない、なかなか合意してくれない、条件が折り合わない…など、その先にはさまざまな壁が立ちはだかります。本連載では、西村隆志法律事務所・西村隆志氏の書籍『キッチリけりがつく離婚術』(東邦出版)より一部を抜粋し、実際の事例を紹介しながら、対処法を解説します。

「多忙な仕事」を理由に育児をしてこなかった元夫

【裁判で親権を夫に取られてしまいました。納得がいきません】

奈央さん(41)が長女を産んだのは9年前、32歳のときのことです。出生時、奈央さんは妊娠前まで勤めていた会社を辞め、専業主婦として育児に専念していました。夫は仕事が多忙で、家事、育児を分担するつもりはまったくない様子でした。

奈央さんはかねてから臨床心理士の仕事に興味があり、娘が1歳になったタイミングで大学院に通い始めることにしました。保育園に預けることはできましたが、休日の補講などの折は、近所に住む奈央さんの実家に娘を預けることもありました。ただ頻度が増えると申し訳なく、たまにベビーシッターサービスを利用して、切り抜けました。

家事や育児をまったくしようとしない夫とはよくけんかするようになり、会話を交わさない状況にまで関係が冷え込んでしまいました。多忙な仕事を理由にいっこうに態度をあらためる様子がない夫に業(ごう)を煮やした奈央さんは、夫の了解を得ないまま、娘を連れて家を出ていきました。娘が2歳のときのことでした。

その後、離婚をすることになったものの、親権をめぐって争いが生じました。夫は長女が連れ出された直後からあらゆる法的手段を使って長女との生活を切望しました。その後、夫は裁判に訴え、年間100日の面会交流の計画を立て、裁判所はそれを評価して、親権者を夫に指定しました。納得のいかない奈央さんは高等裁判所に不服を申し立てました。

◆親権者を決定するうえで、面会交流への対応がどれほど影響を与えるのか

この事例と似た実際の裁判事例があります。そちらはニュースで取り上げられるなど著名ですので、ご存じの方もいらっしゃると思います。実際の裁判において、親権者の判断は第1審と第2審で分かれました。

【1審(家庭裁判所)の判断】

・妻は、夫の了解なく長女を連れ出し、以降5年10か月の間に6回程度しか面会交流に応じておらず、今後も月1回程度の面会交流を希望している。

・夫は、長女が連れ出された直後から、さまざまな法的手段に訴え、長女を取り戻そうとし、長女との生活を切望している。

・夫は、整った環境で周到に監護する計画と意欲をもっている。

・夫は、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示している。

などの事情から、長女の健全な成長を願う父が用意する整った環境で、現在の環境より劣悪な環境に置かれるわけではなく、長女が両親の愛情を受けて健全に成長するには、父を親権者にすることが相当であると判断し、夫を親権者に指定しました。

【2審(高等裁判所)の判断】

1審の判断に対して、2審では、

・これまでの子の監護養育状況、子の現状と父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に対する意欲、子の意思、その他の子の健全な育成に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から定めるべきである。

・面会交流の頻度は、親権者決定の考慮事情の一つではあるが、父母の離婚後の非監護権者との面会交流だけで子の健全な育成や子の利益が確保されるわけではないから、面会交流についての意向は、他の諸事情より重要性が高いともいえない。

との判断基準を示しました。結論としては、

・父宅と母宅とは片道2時間半程度離れており、小学校3年生の長女が、年間100日の面会交流のたびに往復するとすれば、身体への負担のほか、学校行事への参加、学校や近所の友だちとの交流等にも支障が生じるおそれがあり、必ずしも長女の健全な育成にとって利益になるとはかぎらない。

・他方、母の希望する月1回程度の頻度で面会交流を再開することが、長女の健全な育成にとって不十分であり長女の利益を害するとは認められない。

・長女の現在の監護養育状況にその健全な育成上大きな問題はなく、長女の利益の観点からみて、長女に転居及び転校をさせて現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情が見当たらない。

と判断して、長女の利益をもっとも優先して考慮すれば、長女の親権者は母と定めるのが相当であるとしました。この結論は最高裁にも支持され、親権者を母親とすることが確定しました。

このように、面会交流は、あくまで、親権者を決める一つの要素とはなりますが、その他の事情よりも重要性が高いものではなく、面会交流の実施頻度が少ない、または、一切実施していなかったとしても、それだけで親権者が決定されることはないと考えられます。

1/2ページ

最終更新:2019/12/11(水) 9:00
幻冬舎ゴールドオンライン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事