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タヌキの婚活ラブコメ漫画『ラブ・ミー・ぽんぽこ!』が描く、笑えてときめく結婚観

2019/12/13(金) 13:57配信

リアルサウンド

■笑いのない見開きは22回のみ

 この【少女漫画】は、うら若きタヌキ女子が、色々と生きづらいタヌキの世を出て、条件の良い人間の男と結婚するための婚活物語です。

 突然ですが、「キツネ七化けタヌキは八化け」という言葉を聞いたことはありますか? 日本の伝承物語で、化ける動物の代表格といえばキツネやタヌキ。ただ、「狐の嫁入り」を始めとして、化ける動物としてのキツネには神秘的な印象があり、一方でタヌキは何となくコミカルで、ちょっと詰めが甘いイメージです。

 人間同士ですら高度な心理的駆け引きが要求されると噂の婚活。どれだけ上手に化けたとしても、タヌキが人間界で婚活できるの!? 大丈夫!? と、心配になりますよね。

 私も心配のあまり、書店で見かけたこの漫画を即座に購入し、家に帰るなり一気に読んでしまいました。読み終わって最初に思ったことは、「意外ときちんとラブコメだった」という素朴な感想でした。タイトルから、「これはラブコメって言うより、コメディ9.5:ラブ0.5くらいかな…」と思っていたのですが、そんなことはありません。ちゃんと、今後に期待が持てるラブ要素がたくさん出てきました。

 ラブの相手は、序盤からきっちり出てきます。彼らから、今ヒロインタヌキに向けて出ている矢印は、まだちゃんと恋愛感情と呼べるものとは限りません。何らかの意識を持っている、という状態です。でも、その矢印が微妙で方向性が定まっていない点こそが、少女漫画の醍醐味といっても良いでしょう。現時点に対してヒロインタヌキに様々な態度で接している彼らが、今後どのように恋に溺れていくのかを考えただけで、ワクワクしてきます。

 一方でコメディ要素ですが、期待通りにてんこ盛りです。小さな書き文字・顔芸に至るまで、随所にタヌキラブコメらしい笑いが溢れています。面白さを何とかわかりやすく伝えられないかと、笑いにシビアな人間になりきって、笑いのない見開きを探してみました。私の独断に拠ると、条件に合致する見開きは22回。紙の漫画のページ数はおよそ190ページです。計算上、95回ページをめくることになるのですが、めくったページで笑いが待っている確率は85%以上! もちろん笑いのツボに個人差はありますが、読んでいる時間の85%、クスッとしたりニヤッとしたり、ニマニマしたりできます。


■美醜では測れないタヌキの婚活

 ラブもコメディも詰まった本作は、「タヌキの婚活物語」という目新しい題材も大きな魅力です。ヒロインぽんこは、豊かな食料と安定した寝床を得るために、人間界で婚活することを決意します。意外と人里に降りて安定した暮らしを得たい女子タヌキは多いらしく、そこまで特殊なケースではなさそうです。人里には先輩女子タヌキもいて、ぽんこが情報収集を重ねた結果、金持ち学校への入学が決まります。

 ぽんこは、学校では美少女「たぬ沢」の姿となり、楚々とした振る舞い、どこかミステリアスな雰囲気で、男子生徒ばかりか、女子生徒をも魅了します。まさに、学園の高嶺の花。そんな彼女は、「教科書を見せてほしい」とさり気なく、男子生徒にアピールを仕掛けます。そもそも学園には上流階級のご子息・ご息女しか通っていません。これはもはや婚活圧勝ルートにしか見えないのですが、ちょっとした問題も抱えていました。

 それは、同級生の二ノ宮兄弟の存在。二人とも学園の中でもとびきり家柄が良く、容姿も端麗で、女子生徒からも男子生徒からも憧れられています。美少女たぬ沢と、性別だけ逆転させたような人気です。

 その兄弟は、どちらも美少女たぬ沢に執着を持っています。兄の一(はじめ)は、たぬ沢にベタぼれです。声をかけてもらえるだけで上品なマスクが崩れ、満面の笑みとなります。愛情表現として、小切手を差し出して「ここに好きな額を記入してくれるだけでもいい」と言い出すこともあり、さすがのたぬ沢(ぽんこ)も恐怖を覚えるレベルです。

 一方の弟、真(まこと)は、たぬ沢を完全に敵視。たぬ沢を、上辺だけ取り繕って男漁りをしている女だと認識しています。何でも涼しい顔でこなしてきた優秀な兄を籠絡し、豹変させてしまった女だという理由で敵視しているのです。

 条件のいい男を探しているのなら、イケメン&金持ちでベタ惚れの兄とくっつくのが確実では、というのは人間の価値観。でも、ぽんこの婚活における条件は、少し違うようです。ぽんこが重視するのは、健康状態と食料備蓄の量。お金は食べられないので、お金そのものには頓着していません。ただ、お金がいっぱいあれば食料備蓄ができるから、という理由で、金持ちは魅力的だと考えているようです。人間がつい気にしてしまう容姿に至っては、全くこだわっていません。

 条件に合致する男は他にもいっぱいいる状況で、ぽんこは、どっちも別の意味で怖い二ノ宮兄弟はあまり積極的に近づかないでいました。が、それはある日一変します。トラブルで、タヌキ姿のまま、二ノ宮兄弟の暮らすマンションに保護されてしまったのです。

 うっかり人語を喋ってしまったぽんこに、当然二ノ宮兄弟は驚きます。ぽんこは自分が美少女たぬ沢であることを隠して、人間界で婚活をしていることを打ち明けました。それ以来、二ノ宮兄弟との、ちょっと特殊な同居生活が始まったのですーーぽんこ(タヌキ)の姿で。

 二ノ宮兄弟が、美少女たぬ沢に見せる顔と、自宅でぽんこに見せる顔は、全く異なります。今のところ、ぽんこ自身は学校と二ノ宮兄弟の家との二重生活を生きるのに必死です。一方で二ノ宮兄弟の方は、自分たちの目の前で、ありのまま一生懸命生きるぽんこに感化され、少しずつ変化を見せています。それを見守っていると、二ノ宮兄弟の新たな魅力や、解き明かされるべき謎が浮かんできて、もっと彼らを知りたい! という気持ちになります。

 また、ぽんこに心動かされるのはおそらく二ノ宮兄弟だけではありません。私達読者もです。ぽんこが、くじけずタヌキ姿で一生懸命頑張っていると、不思議な愛おしさが湧いてくるのです。彼女が幸せになるのを見届けたい、という気持ちにさせてくれます。

 しっかり笑い、意外とときめく『ラブ・ミー・ぽんぽこ』。タヌキの婚活物語という目新しさも加わった、良質な【ラブコメ少女漫画】でした。2巻は2020年1月に発売予定です。

まさみ

最終更新:2019/12/14(土) 8:45
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