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氷河期世代が直感で出合った故郷伝承の絹糸づくり

2019/12/13(金) 18:50配信

日経ARIA

手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」を生業に選んだARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞いていきます。第1回は、故郷に伝わる絹の製糸技術を生かした作品を生み出す染織家・中野紘子さん。偶然の出合いが始まりでした。

 1粒の繭の表面から引き出す1本の繊維。直径は髪の毛の約10分の1、目をこらさないとよく見えないほどの細さだ。その繊維をより合わせた生糸は、現在はほとんどが大型の自動繰糸機による大量生産だが、数十年前までは農家の女性が手作業で糸をつくり、その糸で布を織る暮らしがあった。

 中野紘子さん(42歳)は、地元の群馬に伝わる「上州座繰り」という手法で群馬産の繭を材料に生糸をつくるところから手掛ける染織家。数十粒の繭から同時に繊維を引き出し、「指先の感覚で、からまないように均等により合わせながら1本の糸にして巻き取っていきます」。集中力が必要な作業だ。

 使う道具は、江戸時代の末に現在の形になったという木製の座繰り器。右手で鍋の中の繭を均等に寄せながら、左手で座繰り器を回して巻き取っていく。手回しで低速で巻き取るので、糸は空気を含んでふわっと軽い。太さに微妙な変動ができるため織った布に表情が生まれる。

 「手仕事の不思議さですよね。同じ道具を使っても別の人がつくると全く違った糸ができますし、そのときの体調やメンタルも糸に反映されてしまいます」

 余裕のない精神状態でつくった糸は、「何日かの分をまとめて並べて見たとき、あるまとまりだけが異質なんです。糸がまっすぐで余裕がない感じで、このときイライラしていたと思い当たる。怖いですね」

糸からテキスタイルをデザインできる新鮮さ

 昔から布が大好きだったという中野さん。布の材料である糸のことまで深く考えたことはなかったが、美しい絹糸を自分でつくれると知ったとき、大きな魅力を感じた。「太さや強弱などを変えると織った布にいろいろな表情が生まれる。糸からテキスタイルをデザインできるというのが新鮮です」

 その人の内面までも投影されるという糸づくり。中野さんの場合は、強く主張する糸をつくろうとしても「どこか優しい感じになる」と言われるそうだ。

 中野さんは主宰するワークショップで座繰りと染織の技術を指導しながら、衣料以外にインテリアやアクセサリーなどにも作品の領域を広げている。2017年には、レクサスが主催した「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」で若手の「匠」51人の一人に選ばれた。出展作品は、糸そのものを巻いて形作ったオブジェ。中にLED光源を入れて間接照明にしたり、アロマディフューザーとして使ったりとインテリア用途を想定している。「身近に置いて日常に楽しんでほしいと思います」

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最終更新:2019/12/13(金) 18:50
日経ARIA

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