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元祖・応援上映 映画草創期のスター『カツベン!』て何だ?

2019/12/14(土) 8:02配信

FRIDAY

100年以上前に日本に上陸した映画(活動写真)は、モノクロ(白黒)でサイレント(無声)だった。生演奏に合わせて「活動弁士」、通称「カツベン」と呼ばれるプロたちが、セリフやナレーションをライブで演じる日本独自の手法が生まれ、彼らは俳優よりも人気があったーー。

『カツベン!』はオールスター映画だ。中でも3人の活動弁士が面白い。活動弁士を夢見る青年:成田凌(26歳)、傲慢で自信過剰な活動弁士:高良健吾(32歳)、酔っ払いだが伝説の活動弁士:永瀬正敏(53歳)。3人の俳優が役柄とカツベンを演じる。2段構えの演技が『カツベン!』の大きな見どころとなっている。

成田凌ら『カツベン!』の名シーン

2020年のお正月映画戦線。先陣を切って11月22日から公開された『アナと雪の女王2』は3週連続1位。12月8日までの累計で観客動員466万人・興行収入60億円を突破して絶好調だ。

一方、迎え撃つ邦画主要3社は12月上旬から順次上映をスタート。東宝は23年ぶりの劇場版で初のCG作品となった『ルパン三世 THE FIRST』を12月6日から公開し、3日間累計で動員22万人・興行収入3億円となっている。松竹は『男はつらいよ お帰り寅さん』(12月27日公開)で、あの車寅次郎(渥美清)が奇跡の復活。そして12月13日公開、東映の『カツベン!』はおよそ100年前の映画の勃興期を描く。

周防正行監督は、徹底したリサーチに基づき、独自の視点と切り口で数々の傑作・ヒット作を放ってきた。『ファンシィダンス』(1989年・主演:本木雅弘)、『シコふんじゃった』(92年・主演:本木雅弘)、『Shall we ダンス?』(96年・主演:役所広司)では、修行僧、学生相撲、社交ダンスという、「あまり(まったく)知られていない世界」を取り上げ、どれも、程よいウンチクを交えつつ極上のエンタメに仕上がっていた。

周防監督は『カツベン!』では無声映画時代の活動弁士「カツベン」にスポットライトをあてているが、カツベンどころか、モノクロ・サイレントも知らない若い観客でも楽しめる作品に仕上げる熟練の技が冴えている。

「無声映画」だから、撮影の際にセリフを覚える必要なんかない。劇中の監督が「よ~い、スタート!」と合図すると、役者たちは演技動作はするものの、セリフの方は適当で、「あいうえおぉ~、かきくけこぉ~」と喋って口をパクパクさせるだけ!

これが映画館で上映される段になると、映画館専属の楽師たちが音楽を生演奏し、カツベンは台本を見ながら、すべての登場人物のセリフを声色で演じ分け、前説、ナレーションまでこなす。

楽師とカツベンによるライブは、楽譜通り・台本通りというワケではなく、観客のリアクションを見ながらカツベンは巧みにアドリブを交える。「笑い多め」「涙多め」など、ノリやトーンを調節しながらセリフを操って(臨機応変に変えて)、観客を笑わせ泣かせ、拍手喝采へと導く。アナログゆえのなんとも大らかで贅沢な上映方式だ。当時は人気のカツベン目当てに映画館に客が集まり、映画館同士でカツベンの引き抜き合戦まであったという。

こうした様子を『カツベン!』は軽妙に描いて飽きさせない。

今や『カツベン!』の時代から100年ほどが過ぎてシネコン全盛期。そこには「3D」「4DX」や「IMAXレーザー」「ドルビーシアター」といった様々な上映方式が導入されて設備・仕様を競っている。また人気の映画では「応援上映」といって、上映中に発声OK、スタンディングOK、サイリウムOK、などといったイベント上映が盛んになっている。かと思えば、コンサートホールでは大スクリーンとフルオーケストラの生演奏による「シネマ・コンサート」が盛んに開催されている……。

思えば『カツベン!』時代の映画館には、3Dや4DXとは別の一体感・没入感があり、毎日が応援上映でシネマ・コンサートだった、というワケだ。そしてカツベンたちの人気は、今の声優人気にも連なって見える。この作品が描く時代は我々から遠いようで、実は1周まわって親しい世界なのかもしれない。

主人公は活動弁士志望の青年(成田凌)。ひょんなことから窃盗団の一員にされて、人生の回り道を強いられる。幼なじみ(黒島結菜)との別れと意外な再会。ライバル弁士(高良健吾)や先輩弁士(永瀬正敏)と衝突・交流をして行く。竹野内豊の“ハンサムな銭形警部”のような役柄や、ライバル映画館の令嬢を演じる井上真央の悪女ぶりも笑わせる。

本作のカツベン・シーンでは成田凌、高良健吾らが、現役の活動弁士たちから指導を受け、みごとな見所・聞き所に仕上げている。こうした事前訓練は、周防監督だけでなく、制作したプロダクション「アルタミラピクチャーズ」の伝統と言っても良い。同プロダクションで矢口史靖監督が撮った 『ウォーターボーイズ』(01年)、『スウィングガールズ』(04年)などを思い浮かべればわかるだろう。

20年正月映画戦線は、『アナ雪2』の先行・独走が続き、20日には『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開される。そんな中、日本映画ならではの映像文化を描いた『カツベン!』がどんな奮闘をするのか、見ものである。

◆『カツベン!』ギャラリー

文:羽鳥透
1965年、東京出身。エディター&ライター

FRIDAYデジタル

最終更新:2019/12/26(木) 17:52
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