ここから本文です

カニエ ・ウェストはどこに向かうのか。

2019/12/15(日) 21:02配信

VOGUE JAPAN

カニエ ・ウェストは、自他ともに認める世界一のアーティストである。この意見に賛否両論あるとしても、ここまで発言や行動が世間を騒然とさせるラッパーは、過去にいなかっただろう。そんなカニエ ・ウェストという奇才を、ハリウッド在住のD姐が見つめ直す。

私は今までに何度かカニエ・ウェストのプライベートの姿を見かけたことがあって、初めて見かけた時のカニエは既に2枚目のアルバム『レイト・レジストレーション』が全米1位となり、ラッパーとしての地位を確立していたのにもかかわらず、乗っていた車はホンダのシビックだった。

ラッパーといえば、大してまだ売れていなかったとしても借金してでもラグジュアリーな高級車を乗り回しているというのに、めちゃくちゃ庶民的な車に乗っているカニエに、逆に計り知れないクレバーさと謙虚さ、他のヒップホップ界のメンツとは一線を画した印象を勝手に受けた(まだシカゴ拠点でLAではレンタカーだったかもしれないが、それにしても……)。

次に彼を見かけた時は、程なくして「ストロンガー」がバカ売れした後にウェスト・ハリウッドにあるホテルのバーだった。飛ぶ鳥を落とす勢いのカニエは、トレードマークとなった白いシャッター・サングラスをかけ、衣装のような全身真っ白のレザースーツというザ・カニエ的な超目立つ格好で、ビールを一人で飲んでいた。

このバーは半テラスな造りとはいえ、屋内のカウンターで夕方から「ここにカニエ居ますよ」の看板を掲げながら一人ビールを飲むカニエ。ここまで自己顕示欲強いと、逆にかわいいな、というか、あの時の中古のシビックはなんだったんだろうか……と。11月24日に行われたカニエが初プロデュースをした「オペラ」を見ながら、そんな12年前の想い出にふけりつつ、「カニエは一体どこに向かっているんだろう」と思ってしまった。

ゴスペル・アルバムという新境地に挑む。

10月25日に発売された最新アルバム『ジーザス・イズ・キング』は、9週連続ビルボード全米チャート1位となり、エミネムの記録を破って史上最多連続No.1記録に並んだ。しかし、この9作連続はJay Zとのコラボ・アルバム『Watch the Throne』が含まれていて、最高2位に終わった前作のキッド・カーディとのコラボ『Kids See Ghost』はどうなっているのかと不思議だが……。改めてアーティストとしての実力と存在感、そしてファン層の厚さを示したが、『ジーザス・イズ・キング』が全米1位になったことには記録破りというだけではない、大きな意味がある。それは、これがゴスペル・アルバムだということだ。

カニエはもちろんラップをしているが、奏でられているのはまさに全曲ゴスペル。彼はこのアルバムと同時に「サンデー・サービス」というゴスペルグループを結成し、コーチェラ・フェスを皮切りに全米各地や刑務所を訪れて、日曜日にパフォーマンス活動をしている(もともとサンデー・サービスとは日曜礼拝のこと)。このアルバムはもちろん、これ以降カニエはカースト・ワード、つまりFワードなどのいわゆる放送禁止用語を一切歌詞にしない、過去の楽曲をパフォーマンスする時は、言葉を代えたものでパフォーマンスするとも語っているほどの改心ぶりだ。

2作前のアルバム『ライフ・イズ・パブロ』(パブロは使徒パウロのこと)でも、ゴスペル・テイストを出してはいたが、カニエはこのアルバム発売後にメンタルが崩壊し、精神的な疾病の治療で入院した。その時にキリスト教に改めて目覚め、新生キリスト教徒として今に至る、という。日本だとアーティストがここまで信仰に激アツになってしまうと、ファンはちょっと様子見してしまうかもしれない。だが、先述のオペラ公演では、観客は大勢の昔ながらのカニエ・ファンはもちろんのこと、白い襟カラーをした祭服姿の聖職者やGODとプラカードを持った人もちらほら見かけたし、今までのカニエのライブでは絶対見かけなかった老夫婦も多く、確実にファン層を広げているように思えた。そして何よりブラッド・ピットさえ来ていたのだから。

1/3ページ

最終更新:2019/12/16(月) 19:08
VOGUE JAPAN

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事