秋元松代の最高傑作と言われる作品だ。常陸坊海尊とは、武蔵坊弁慶とともに義経の従者として『義経記』や『源平盛衰記』に登場する人物。主君の義経が討たれるそのときに逃げてしまった罪を懺悔し続け、四〇〇年以上を生きて源平合戦を人々に語り聞かせたという伝説の人物だ。東北地方には古くから、常陸坊海尊という仙人が実在したという言い伝えがある。これに基づき、秋元は、日本戦後史の時間軸に伝説の時間軸を組み込む。
物語の中心にいるのは、海尊の妻と名乗って海尊のミイラを守る巫女のおばば。演じるのは、二二年前にもこの役を演じた白石加代子。東京からの疎開児童・安田啓太(平埜生成)に、亡くなった母に会わせてやると言う。啓太の母がおばばに憑依する場面を白石がどう演じるかが見どころだ。
おばばには美しい孫娘・雪乃(中村ゆり)がおり、その魔性の力で男を翻弄する。人間が抱える情けないばかりの「生」や「性」への執着が、時代を超えて描かれる。義経は天皇と重ねられ、生きたいという《卑怯な》心を抱える《非国民》の大衆は海尊と重ねられる。それゆえ伝説の海尊(大森博史)は、復員兵姿の海尊(平原慎太郎)や退職者風の海尊(真那胡敬二)としても登場し、やがて啓太自身も海尊となっていく。海尊とは、民衆の苦悩を引き受ける癒やしであり、救いの姿なのだろうか。
啓太の友人・伊藤豊役に尾上寛之、小学校教師役に長谷川朝晴、疎開者たちを預かる旅館の主人役に高木稟、おばばにつきまとう山伏・登仙坊玄卓役に大石継太など脇役も充実している。
演出は活躍の目覚ましい長塚圭史。音楽は田中知之。
2019年12月11日(水)~22日(日)
横浜市中区・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
全席指定 S席7500円 A席5500円
24歳以下・各席種の半額、高校生以下・1000円、65歳以上・各席種の500円引き
お問い合わせ チケットかながわ
電話:0570・015・415
兵庫公演●2020年1月11日(土)、12日(日)
兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
岩手公演●2020年1月16日(木)
岩手県民会館大ホール
最終更新:2019/12/18(水) 17:14
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