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無電柱化、首都高の地下化……無形のレガシーを活かし東京を世界標準の都市に

2019/12/19(木) 8:02配信

中央公論

対談:アレックス・カー氏(東洋文化研究者)×小池百合子氏(東京都知事)

少子高齢、人口減少、災害対策などの課題を抱える東京は、東京オリンピック・パラリンピック(東京2020大会)のレガシー(遺産)を活かし、どのような都市を目指していくのか。その重要な鍵となる景観問題について、小池百合子東京都知事と、『観光亡国論』の著書もあるアレックス・カーさんが語り合った。


●電柱は日本の代名詞?
カー)今日は東京・中目黒の「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」に立ち寄ってきました。東京の最新スポットで、外国人も含めて多くの人たちで賑わっていましたが、外から写真を撮ろうとした時に、僕だけでなく、みんなが困っていました。カッコいい建物なのに、電線が入ってしまうんです。

小池)日本に来た外国人が「珍しい眺め」として被写体にするのは、「立体駐車場」「パチンコ店」、そして「電線・電柱」の三つといわれているんです。グーグルが六本木にオフィスを持っていた時、壁の一つに電柱の絵が描かれていたそうです。いかに電線・電柱が日本の代名詞、象徴になってしまっているか、ということですね。

カー)象徴でもあり、日常でもあります。

小池)日本人にとってそれらは「黒子」で、そこにあるのだけど、見えないお約束になってしまっている。私は二〇一五年に『無電柱革命 街の景観が一新し、安全性が高まる』という本を著したのですが、共著者で現在は放送大学教授の松原隆一郎さんは、それを「電線病」と名付けていました。

カー)フランス語に「ロマン・デ・ラブー」=「泥のロマン」という言葉があります。スラムの眺めが物珍しく、面白いから見物に行こう。でも、自分たちはそんなところには絶対に住みたくない、といった、ある種の傲慢なエキゾチズムを表した言葉です。それと同じで、立体駐車場、パチンコ店、電線・電柱は、外国人観光客にとってエキゾチックな「ロマン・デ・ラブー」なんです。当の日本がそこで満足していたら、世界レベルの「観光立国」はできません。

小池)おっしゃる通り、無電柱化は防災面で重要な意味を持ちながら、観光促進の面でも非常に大切なことです。

カー)小池さんが取り組まれている東京の景観についての政策には、二つの大きな柱があると思っています。無電柱化と、日本橋の首都高速道路の地下化です。僕が小池さんと初めてお会いしたのは、小池さんが衆議院議員でいらした時。国会議員が誰も電線・電柱の問題提起をしていなかったころから、小池さんは積極的に発言し、行動していました。

小池)日本には三五〇〇万本の電柱があるといわれています。これは一説によると、桜の木と同じ数とのこと。公益財団法人「日本さくらの会」は毎年一万本を植樹していますが、電柱は毎年七万本が建てられている。桜は美しい眺めを作ってくれますが、電柱はそうはいきません。

カー)電柱は景観の大きな阻害要因になっています。世界の都市を見ると、ロンドン、パリ、シンガポール、香港は完全に無電柱で、ソウルの無電柱化率は四九%、ホーチミンは一七%です。一方で日本は全体で一・二%。東京は七・八%。まだ世界標準とはいえませんが、東京が国内でいちばん進んでいるのは、小池さんの問題意識があるからだと思います。

小池)電柱のデメリットはもちろん景観阻害だけではありません。阪神・淡路大震災の被災者へのアンケートでは、回答者の七六%が倒壊した電柱で被害に遭ったと答えておられます。二〇一九年秋の台風でも、倒壊した電柱がまちに甚大な被害をもたらしました。

カー)観光面だけでなく、災害大国の日本にとって、電柱は何重にも危険な存在ですね。

小池)そんな問題意識から、私は衆議院議員時代に「無電柱化推進法」を議員立法でまとめました。東京都知事になった後も「東京都無電柱化推進条例」を作り、都市機能が集中する「センターコアエリア」内の都道で無電柱化を進めています。

カー)それはどこでしょうか。

小池)浅草通り、晴海通りなどいくつかあります。ただ、都道は総延長で二三六四キロメートルもありますから、まだまだ道は遠い。ですから、私は、無電柱化の取り組みについて聞かれた時は、「遅々として、進んでいます」というふうに申し上げています。

カー)何が阻んでいるのですか?

小池)国会議員時代に法案を作成した時は、とにかくコストが問題でした。その後の技術革新のおかげで深さや埋設の仕方が変わって大分削減できるようになりました。とはいっても、依然としてコスト高の問題はあります。また、電線を地中化しても電力会社、通信会社は儲からないので、事業者サイドのインセンティブは弱い。しかし、景観は劇的に向上しますので、その価値はとても大きいと思います。

カー)電線地中化の議論でよくある反論が、日本は地震国だから電線を埋められない、というもの。電線が地中にあると、トラブルが起きた時に、その箇所を見つけるのが難しい、というのです。一理ありますが、それでも僕は、地震国こそ電線は埋めなければならないと思っています。地震が起こった時の倒壊電柱は、あきらかに人命救助の妨げになります。

小池)秋の台風被害は、無電柱化の機運を高めました。電柱のいい点は復旧が早いところのはずだったのに、実際は倒壊の被害が深刻で、しかも復旧が早いわけではなかった。ということは何も利点はないわけです。私は、地震国だから地中化はムリという方には、「じゃあ、なぜガス管は地中を通っているんですか?」とお尋ねすることにしています。そうすると、みなさん、黙ってしまわれますね。

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最終更新:2019/12/19(木) 8:02
中央公論

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