●「パリ協定」はなぜ合意できたのか
「人口減少社会」といわれて久しいものがありますが、僕はこれは、明らかな人災だと考えています。人災ならば天災とは異なり、対処法があります。
これを日本固有の問題として考えるのは「木を見て森を語る」ようなもので、視野が狭くなります。地球規模で、人口問題がどうなっているのか、まず把握しておくことが欠かせません。
そのポイントは大きく二つあります。一つ目は、国連で進めている「人口支持力」の研究。地球という物質が、どれくらいの人口を支えられるのかということです。世界の人口は増え続け、現在は七七億人に達しています。では今後、さらに増え続けたらどうなるのか。ある論文によれば一二〇億人±一〇億~二〇億人まで支えられることが科学的にわかっているそうです。つまり、地球にはまだ若干の余裕があるわけです。
喫緊の課題は、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の人口の急増です。その地域の現在の人口は約一〇億人ですが、国連の予測によれば、二〇五〇年には約二一億人と倍増するそうです。しかしアフリカは、教育をはじめとして他の地域より遅れている部分が少なくありません。いかに教育を行い、サステナブルな成長を遂げてもらうか。これが、地球規模で見た場合の最も大きな人口問題です。
二つ目は、気候変動との関係です。地球には約四〇億年の生命の歴史がありますが、何度も絶滅の危機に瀕してきました。その要因は、だいたい気候変動です。それだけ、気候は生命にとって大変な脅威なのです。
ところが、気候のメカニズムは非常に複雑で、最新のスーパーコンピューターでいくら解析してもシミュレーションできません。つまり、人類の叡智を結集しても太刀打ちできる相手ではないのです。
二〇一五年末、「COP21(国連気候変動枠組条約第二一回締約国会議)」で「パリ協定」が成立しました。産業革命前からの世界の平均気温の上昇を二度未満に抑えること、そのために温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしていくことが主な柱です。もともと環境問題は先進国と途上国の間で対立することが多いのですが、パリ協定では折り合えて、現在では約一八〇ヵ国が批准しています。
その最大のインプリケーションは、まさに気候変動が「よくわからない」ことにあります。実は温室効果ガスが温暖化の真犯人なのか、解明されたわけではありません。かなり疑わしいという意見もあります。しかし、このまま放置していいはずがない。そこで、取り返しがつかないことになる前に打てる手を打ち、将来の人類がもう少し賢くなることに期待しようというわけです。
つい先ごろ、アメリカのトランプ大統領がパリ協定からの離脱を正式に通告して話題になりました。しかしブルームバーグ前ニューヨーク市長やカリフォルニア州知事などを中心に、アメリカ国内約一〇〇〇の首長や企業、大学などは、かねて「トランプが何と言おうと、パリ協定を断固として守る」と宣言しています。強い危機感の表れでしょう。
●人口問題の「総論」を学ぶ五冊
以上の二点が、地球規模で当面二〇~三〇年の人口問題を考えるとき、欠かせない視点です。より深く知ろうと思うなら、まずくべきは経済学者マルサスの『人口論』でしょう。十八世紀末に書かれた古典ですが、人口増加と食糧生産力の関係を扱った書のです。
次に、地球上で人間がどのように増えてきたかを人類生態学の視点で知るには、大塚柳太郎『ヒトはこうして増えてきた』がわかりやすい。二〇万年前にアフリカで誕生したヒト(ホモ・サピエンス)が、いかにして世界各地へ拡散し、定住・農耕生活を始め、文明を築き、そして今日のように激増したのかを綴っています。また、その経緯を文化的・文明的な観点で捉えたのがマッシモ・リヴィ─バッチ『人口の世界史』です。
ホモ・サピエンスの歴史は、十八世紀後半から始まった産業革命によってステージが大きく変わります。それまでの農耕社会から工業社会になり、およそ一〇億人だった人口はここから急速に増えていきます。また農耕社会では気候が社会を動かす大きな要因でしたが、工業社会はさほど気候に左右されません。そのため、人類は気候変動に鈍感になったともいえるでしょう。
その産業革命前後から今日までの二〇〇~三〇〇年に焦点を当て、人口学の見地から近現代史を綴ったのが、ポール・モーランド『人口で語る世界史』です。
以上の四冊を読めば、世界史における人口の大きな流れはわかります。それを踏まえて、日本の人口がどう推移してきたかを知るには、高島正憲『経済成長の日本史』が優れています。同書のテーマは古代から明治時代初期までの一人当たりGDPの推移を追うことですが、その前提として各時代の人口を推計しています。
以上が、人口問題を世界的・歴史的に理解する、いわば「総論」です。
構成・島田栄昭
(『中央公論』2020年1月号より「日本の問題を知るための各論5冊」を割愛して抜粋しました)
最終更新:2019/12/21(土) 8:07
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