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街の真ん中でワイン醸造 ブドウ産地も多彩な「都市型ワイナリー」

2019/12/23(月) 7:47配信

NIKKEI STYLE

ワイナリーといえば広大なブドウ畑の中に建つ大きな醸造所や貯蔵場を思い浮かべるかもしれない。そんなイメージを抱いて訪れると、その想像が大きく裏切られるワイナリーが最近増えている。都心の住宅地やオフィス街でワインづくりを行う小規模ワイナリーだ。ブドウは生産地から仕入れ、醸造は消費者に近いところで行う、こうしたスタイルは「都市型ワイナリー」と呼ばれる。米国・ポートランドが発祥といわれ、ニューヨークやパリなど世界中に広がりつつある。街中立地ゆえに、気軽に寄って、たるからじかにくんだワインを購入したり、併設レストランで飲んだりすることができる。東京と横浜で話題の、そんな都市型ワイナリーを4カ所紹介する。
「清澄白河フジマル醸造所」は東京・江東区の住宅街と町工場が混在するエリアにある。元鉄工所だったというビルの1階が醸造所で、2階にはイタリアンレストランを併設する。醸造長の木水晶子さんにオープンのいきさつを聞いた。
「私たちの会社はもともと大阪でワインショップを経営するところからスタートしています。大阪府はかつて生産量もトップクラスのブドウの産地でした。しかし、近年では農家の高齢化などで耕作放棄されるブドウ畑が増えてきました。ワイン業界にいる身としてそれは見過ごせません。そこで、自分たちで畑の手入れをし、ブドウ栽培に乗り出すことになったのです」
2010年、大阪・柏原の小さな畑からスタートすると、次第に近隣農家からの耕作依頼が増えていった。「管理する畑が多くなれば、当然そのぶん収穫量も増え、醸造する場所が必要になってきました。そこで13年に大阪のど真ん中に自分たちのワイナリー『島之内フジマル醸造所』を設立しました」(木水さん)
これが日本初の都市型ワイナリーだ。大阪のど真ん中を選んだのは、ワインのことを知ってもらい、親しみを持ってもらうには消費者に近い場所がいいと考えたからという。
「醸造所ができると、今度は近郊の農家だけではなく、東日本の産地からもブドウの買い取り依頼が舞い込むようになりました。点在するブドウの産地から買いつけるとなると、やはり物流の中心である東京がいい。そんなことから2015年にワイナリー第2号を東京に設立することになったのです」
仕入れているのは山形県のデラウェア、山梨県のメルローやシャルドネ、千葉県の巨峰、茨城県のマスカットベーリーAなど。「補糖(原料の果汁の糖度の不足を補う)や補酸(酸の低い果汁に酒石酸などの酸を加える)をせずにブドウ本来の味を味わっていただけるようにワイン醸造している」とのこと。レストランでは、階下の醸造所からダイレクトに運ばれた「生樽ワイン」が人気。時期によって種類はさまざまで、いずれもボトル詰めされる前のできたてのワインがビールサーバーで提供される。

ワインは長期間保管することでおいしくなるものと思われがちだが、中には熟成させずにフレッシュな状態で飲むのがおいしい「早飲み」タイプもある。「都市型ワイナリーでは熟成させる場所がないので、『早飲みワイン』が多いです。生樽(たる)ワインは二酸化炭素をサーバーに充填させているので、飲むときに少し発泡しますが、そのシュワシュワした感覚も楽しんでいただきたいですね」(木水さん)
ワインがこのように地産地消されれば、ボトル、ラベルやキャップなどの消耗品が不要でコストがかからず、環境にもやさしい。輸送による衝撃や温度変化も少なく、つくりたてのピュアなワインがいただける。都市型ワイナリーではこうしたスタイルで提供するところも多く、生ビール感覚でいただける生樽ワインは今後ますます注目されそうである。
同じ江東区内にもう1つ都市型ワイナリーがある。16年、東京メトロ東西線の門前仲町駅から徒歩5分ほどの住宅街にオープンした「深川ワイナリー東京」だ。こちらのコンセプトは「コト創りのワイン醸造所」。併設のテイスティングルームや完全予約制のレストランからは、ガラス越しにワイン醸造の様子を眺めながらワインや食事を楽しむ「体験」ができる。いや、ただ見るだけではない。
「収穫シーズンにはお客さまと一緒にブドウをプレスしてタンクに入れるなど、醸造の一部を体験していただけます。実は、ワイン醸造のプロセスはとてもシンプルで、しぼったブドウの果汁が発酵するのを待つだけです。このワイン醸造を身近に見て、体験して、知っていただきたいんです」と語るのは醸造事業部部長の上野浩輔さん。
たとえば、結婚が決まったカップルが初めての共同作業として醸造体験をし、そのワインを引き出物にする、子どもを授かった夫婦が醸造体験をし、子どもが成人したときにプレゼントする、といったこともできるとか。
ブドウは山形県、長野県、青森県、北海道などほか、ニュージーランドやオーストラリアからも買い付ける。「日本のブドウが採れないオフシーズンには季節が逆の南半球から仕入れている」とのこと。
昨今は日本産ブドウを使い日本で醸造する「日本ワイン」にこだわる小規模ワイナリーが多い中、こちらのワインづくりは発想豊かで自由度が高い印象を受ける。「『どういうワインを目標にしているんですか』とよく聞かれるのですが、そういうのはまったくなくて、自分たちがおいしいと思うものを作っています」と上野さん。
同じ産地の同じ品種でも「ろ過」と「無ろ過」、スパークリングと白で飲み比べができるものもある。また、単一品種のワインもあればブレンドワイン(アッサンブラージュ)もあり、バリエーションが豊富だ。
「ワインは原料の品種が一緒でも採れた土地やつくっている人によって味が違い、またその味がその土地の料理にいちばん合うものです。東京は国内外からいろいろな人やいろいろな食べ物が集まって調和がとれている場所。まさにアッサンブラージュです。ですから、北海道や長野や青森など違う地域で採れたブドウを東京で醸造してアッサンブラージュしたワインは東京の食に合う、東京っぽいワインだと思うんです」
さまざまな産地のブドウからできるワインが楽しめ、さらにアッサンブラージュも楽しめるのも都市型ワイナリーならではといえるだろう。
東京・御徒町にから蔵前にかけては「カチクラ」と呼ばれ、近年「モノづくりの街」として注目されている。このカチクラに17年にオープンしたのが「Book Road~葡蔵人~」。1フロアわずか10坪の雑居ビルの1階と2階が醸造所、3階がテイスティングルームになっている。
「私たちの会社は台東区を中心に飲食店を展開しています。料理をつくることももちろん『モノづくり』ではあるのですが、イチからつくったものではありません。ちゃんと自分たちの手でつくったといえるものをお客様に提供したい。そんな思いからワインづくりを始めることになりました」と語るのは醸造責任者の須合美智子さん。
目指すのは「食事と合わせておいしい、会話がはずむようなワイン」。山梨県、長野県、茨城県などから仕入れたブドウでつくったワインのボトルには「サンジョベーゼ」「シャルドネ」といった品種の名前とともに「にんにく」や「タイ」など食べ物のイラストが描かれている。
「これはそのワインに合うおススメの食材や料理をイラストにしているんです。ワインはまだまだむずかしいものと思われていて、そのひとつが『ペアリング』。ワインと料理の組み合わせで迷われる方は多いと思いますが、これなら一目瞭然です」
目を引いたのは「アジロン」という品種からできたワイン。ボトルのエチケットに描かれたイラストはなんとハンバーガー! アジロンはイチゴジャムのような甘酸っぱい香りなのにドライな口当たりが特徴で、肉汁があふれるハンバーガーにピッタリなんだとか。
毎月最後の金曜日と土曜日は「バル」を開催。ワイナリーの前で醸造設備を眺めながら立ち飲みができる。ワインというと「高尚」「難しい」というイメージがあるが、こちらではワインを身近なものと思わせてくれる。
ちなみに、印象的なワイナリーの名前の由来は「『葡蔵人』の『葡』はブドウ農家さん、『蔵』は醸造所である私たち、『人』はお客さま。この3者が見えない道でつながってともに繁栄していくという願いが込められています」と須合さん。
モノづくりの街でこんな小さなスペースでワインが作られているのを見ると、ワインは「工業製品」でなく「農産物」だと改めて実感する。都市型ワイナリーは都会の消費者に「農業」を身近に感じさせてくれる場所だと感じた。

横浜の海を臨む新山下に船宿が集まるエリアがある。ここに17年にオープンしたのが「横浜ワイナリー」だ。
代表で醸造責任者の町田佳子さんはまったくの異業種からワインづくりの世界に飛び込んだ。「私がワイナリーを始めたのは食糧問題に端を発しています。前職ではWWF(世界自然保護基金)ジャパンの広報で、食糧問題に関して報道関係者に情報提供をする仕事をしていました。でも、自分自身が食べものをつくったり流通の中に入ったりした経験もないのに、情報のうわべだけをすくって発信することに疑問を持つようになったんです」
飢えで苦しむ国がある一方、日本では形が悪いというだけで廃棄される果物や野菜がある。このことにも矛盾を感じていた。「この矛盾は生産現場と消費現場が離れているからであり、この両者を『つなぐ』場所を都心につくることが必要だと考えました。そこで、住んで20年になる地元・横浜で、作り手の顔が見える『地産地消』のワインづくりをしようと思ったのです」
1年かけてブドウの調達、資金の調達、売り先はどうするかなど、一つひとつのハードルをクリアし、果実酒製造免許を取得。横浜出身のオーナーが経営する石川県能登のワイナリーに修業に行き、醸造を学んだ。
ブドウは山形県、山梨県、長野県、岩手県などの農家から仕入れ、ボランティアの力を借りながら、醸造から販売までをほぼ1人で行う。町田さんがつくる「ハマワイン」はアルコール度が低めのスッキリとやさしい味。「おでんなど『だし』が入った和食に合うと思います」との町田さん。
「賞をとるようなワインをつくりたいとかいう欲求はないんです。でも、原材料のブドウに対するこだわりはあります。減農薬のもので、農家さんがきちっと面倒を見て丁寧に育てているブドウであること。また、最近は果樹農家がどんどん少なくなってきています。こうして耕作放棄されたブドウ畑を若者たちが再生する動きがあり、彼らが作ったものを積極的に買い付けています」
客が持参したリユース瓶に醸造タンクからワインを直くみして持ち帰ることができる「手汲みハマワイン」(10ミリリットル・30円~)も実施。ワインを通して食糧問題や環境について消費者に考えてもらう。これも都市型ワイナリーのひとつの存在意義といえるだろう。
産地が全国にあるからこそできることがある。醸造場所が都会にあるからこそできることがある。都市型ワイナリーはいろいろな可能性を秘めていると感じた。クリスマスは東京生まれ・横浜生まれのワインで乾杯してみてはいかがだろうか。
(ライター 辻佳苗)

最終更新:2019/12/23(月) 7:47
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