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AIと共に人類も進化 「ポストヒューマン」の特徴は

2019/12/24(火) 11:44配信

NIKKEI STYLE

青山学院大学特任教授 小林康夫

人文学は英語で言うならヒュマニティーズ、つまり「人間性」でもあるのだが、人間中心のその知が、いま、問い直されている。

大学の人文系諸学部に対する改編圧力という身近な現象もあるが、それは、世界史的な次元で急速に進んでいる、「人間」という存在そのものの問い直しのネガティブな効果であるように思われる。

この問い直しは、どのように起こってきているのか。

AIが人知を凌駕

乱暴なまとめだが、ひとつは、地球温暖化による気候変動に顕著に見られるように、人類の文化経済活動の総体が地球環境に重大な影響を及ぼし、他の多くの生命種を滅ぼしていることまでが明白になってきていること。

ふたつ目に、過去半世紀間の情報テクノロジーの発展によって、人間の能力の中核と考えられていた判断能力や情報処理能力などがAI(人工知能)によって、圧倒的に凌駕(りょうが)されるという事態になっていること。

最後にもうひとつ挙げるなら、西欧で生まれた「自由な個人」という近代的人間観に裏打ちされた国民国家、民主主義、資本主義という社会の基本構成に臨界が感じられているのにもかかわらず、それに替わる新しい人間観・社会システムが見えてこないこと。

深い深度をもってわれわれに切迫するこの問題提起に人文学はどのように応答するのか。

まず西欧近代が生み出した抽象的で超越的な「人間」概念そのものを「人類」という「種」へと接続する新しい地平を開かなければならない。そのためには「人類=人間」をこれまでの歴史の枠組みを超えて位置づけ直さなければならない。たとえば、篠原雅武著『人新世の哲学』(2018年・人文書院)が好例だが、1万年に及んだ「完新世」が終わり、「人間」の有限性から出発する「人新世」という新しい時代がはじまっているという認識のもとに、人間の条件をもう一度再考すること。

あるいは、ロージ・ブライドッティ著『ポストヒューマン』(門林岳史監訳、19年・フィルムアート社)のように、すでに出現しはじめている新しい「人間」のあり方をあえて「ポストヒューマン」と名づけることで、さまざまな徴候(ちょうこう)を探査し、その倫理性を明らかにしようとすること。

だが、重要なのは、時代が突きつけてくる新しい問題に、人文学の本質をなす、イメージの編集でも数理言語でもなく、自然言語の論理的な創造性に基づいた批評的思考をもって答えることである。

この観点から、今回、目を通した本のなかで圧倒的におもしろかったのが、ジェームズ・スタネスク、ケビン・カミングス編『侵略者は誰か?』(井上太一訳、19年・以文社)だった。冒頭の例だが、カリフォルニアの在来種ではない野生のオウムを論じながら、古代ギリシアのディオゲネスの「世界市民」の概念を呼び出し、このオウムが「いとわしい」のでも「いとしい」のでもない、「新たな地球の先触れ」の「共生者」となる希望へと辿(たど)り着く、まさに「人間」の思考の息づかいが伝わってくる批評的論稿だった。

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最終更新:2019/12/24(火) 11:44
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