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もはや絶滅寸前、「中産階級」はどこに消えた?

1/4(土) 6:00配信

JBpress

 (舛添 要一:国際政治学者)

 大晦日には、日産のカルロス・ゴーン元会長がレバノンに逃亡するという大ニュースが入ってきて、世界中を驚かせた。どのようにして出国できたのかなど、まだ不明な点が多いが、あらためて日本の司法制度が内外で問題にされるであろう。日本もフランスも蚊帳の外に置かれた状況だったが、ゴーン被告は既に過去の人であり、今回の逃走劇が日産とルノーの今後の提携関係に影響を及ぼすことはないであろう。

2019年8月16日、新型兵器の試射を指揮する金正恩委員長

 レバノンという小国の出身で、パリでエリート校に進み、世界的企業のトップ経営者となったゴーンは、レバノン、フランス、ブラジルの国籍を持ち、蓄積した富を使って世界中にコネクションの網の目を張り巡らせた。そして、日本政府の監視を潜り抜けてまんまと逃走に成功した。日本政府、とりわけ司法当局の非国際性、情報収集能力の欠如を白日の下にさらした醜態である。

 しかし、そのような情報小国であっても、激動する世界の中で生き残っていかねばならない。2020年の初めに当たり、世界情勢を展望してみると、キーワードは格差である。

■ 些細なきっかけで爆発する民衆の不満

 世界の不安定、民衆の不満、ポピュリズムの背景には格差の拡大がある。

 ゴーンの祖国レバノンでは、スマホの無料アプリ、ワッツアップへの課税案をきっかけに、経済運営に不満を持つ市民が10月17日にはじめた反政府デモが2週間も続き、遂に10月末にハリリ首相が辞任した。電話網など公共インフラが整備されていない状況では、ワッツアップに頼らざるをえず、政府の無策に市民の不満が高まったのである。しかし、政治家と一部の富裕層が結託することによって、貧富の格差が拡大しており、それが反政府デモの背景にある。

 同様なことはチリでも起こっている。チリは、南米でも最も豊かな国であるが、OECD加盟国の中で、所得格差が最も大きな国である。そのチリで、地下鉄運賃値上げをきっかけに激しいデモが起こり、ピニェラ大統領は11月のAPEC と12月のCOP25の開催を断念せざるをえなかった。

 両国とも、きっかけは些細なことであるが、その背景にあったのは、格差の拡大によって、火口の底で煮えたぎるマグマのように、爆発寸前の状態まで高まった民衆の不満である。

■ 厚い中産階級層が社会的安定のカギ

 世界中で、移民や難民を排斥したり、ユダヤ人を攻撃したりする人種差別事件が増えている。アメリカでは、12月28日、ニューヨーク州のユダヤ教のラビの家で、「ハヌカ」の祭礼に集まった5人が銃撃され負傷した。犯人はヒトラーに影響を受け、ナチス流の反ユダヤ主義に染まっており、ヒトラー関連の情報をネットで検索していたという。

 欧州でも、ナチスの犯罪を反省したはずのドイツで、極右が台頭し、ネオナチが自治体の首長を殺害するまでになっている。このようなヘイトクライムの背景には、やはり格差の拡大がある。それが、ポピュリズムを勢いづかせ、民主主義を危機に瀕しさせている。

 格差の拡大は、富裕層と貧困層の対立を呼び起こす。同時にそれは、両者の中間にいるべき中産階級が急速に消滅しつつあることを意味する。広範な中産階級が繁栄と平和を享受しているところでは、社会の治安は保たれ、コミュニティが活気に溢れている。

 中間にいる階層は、努力すれば上流に辿り着くことが可能であり、それが人生のモチベーションになる。この社会的流動性の高さこそ、自由で希望に溢れた国の象徴である。誰もが成功へのパスポートを手に入れることができるからである。その意味で、中産階級こそ政治的安定の鍵を握る存在だと考えてもよい。

 これに対して、今の世界は、貧富の格差は拡大し、持てる者と持たざる者の間には越えることのできない溝ができてしまっている。そして、貧困は世代を越えて継承される。それは日本でも同じで、子どもの貧困が大きな社会問題となっている。アメリカの研究でも、貧困の固定化は、教育機会と大きく関係することが明らかになっている。親が貧しくても、大学に進学した子どもたちは貧困から脱却することができている。

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最終更新:1/4(土) 6:00
JBpress

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