ここから本文です

縄田一男「私が選んだベスト5」

1/12(日) 8:00配信

Book Bang

『別れの季節 お鳥見女房』は、二十年間書き継がれたシリーズの最終巻。黒船来航から小田原大地震と物情騒然とする中、様々な事件と遭遇しつつも、珠世をはじめとする面々は日々を大切に生きていく。感動のボルテージは、ラストに向って高まっていき、最後の最後で、一転、微笑みに変わる小説技巧は見事。正に感無量の一巻といえよう。

『通夜女』は、通夜を渡り歩き遺族を慰める都市伝説である“通夜女”となった小夜子が、自分の真の居場所を発見するまでを描く。一見、戯画化された物語と文体の中から、死を真剣に見つめる作者の視点が光る。

『旅の作法、人生の極意』は、著者が『ジョン・マン』を描くためのアメリカ旅行をはじめ、様々な旅から生まれる出会いや甦る過去の思い等を縦横無尽に描いた好エッセイ。それでいて時折、襟を正す思いになるのは、山本一力が作家である以前に、覚悟をもって生きている人であるからだろう。

『昭和史講義【戦前文化人篇】』は、二〇一九年、私が最も刺激を受けた一冊。主に大衆向けの作品や文化を創造してきた文化人が、戦前戦中をどう生きたかを、彼らの立場に立って考えた十六の論考から成る一巻。一例をあげれば、西條八十を論じた項目では「この時代、大衆に寄り添っていくということはそういうこと(戦犯になりかねない)だった」とし、大学や教育に守られていない思想家、文学者などの探究に重きを置いている点は画期的だ。

 閉鎖的な研究課題に心地良い風穴をあけた一巻。

『幽霊島』は、わが国の海外怪奇小説研究の第一人者にして、多くの作品を紹介してきた平井呈一翁入魂の訳業十三篇に、対談、エッセイ、書評を付して贈る怪奇小説ファン必読必携の一巻。磨き抜かれたことばの一つ一つを心ゆくまで愉しみたい好著である。

[レビュアー]縄田一男(文芸評論家)

新潮社 週刊新潮 2019年1月2・9日新年特大号 掲載

新潮社

最終更新:1/12(日) 8:00
Book Bang

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事