ここから本文です

中外製薬の会長を退く永山氏、業界振興にもう一踏ん張り

1/12(日) 7:00配信

日経ビジネス

 中外製薬の創業一族出身の経営者として、25年以上にわたって同社を率いてきた永山治会長が退任する。3月の株主総会で取締役を退き、名誉会長に就任する。2001年にはスイス・ロシュが過半数の株式を取得する形での提携を決断。以来、経営の独立を維持しながら中外製薬の業績を拡大させてきた。今年、中外製薬の経営からは退くものの、バイオ産業の業界団体のトップとして、日本のバイオ産業の振興にまだまだ力を注ぐ。

【関連画像】日本のバイオ産業の振興にまだまだ力を注ぐ。(写真はイメージ)

 バイオ産業の業界団体であるバイオインダストリー協会(JBA)とJTBコミュニケーションデザインは1月8日に会見を開き、例年10月に開催しているイベント「BioJapan」に併せて、「healthTECH JAPAN」を同時開催すると発表した。

 BioJapanは創薬に関連する技術の展示会および技術交流の場として、1986年以来30年以上にわたり、JBAが中心になって開催してきた。特に近年、製薬産業で外部からの技術や創薬シーズの導入が活発化していることを背景に参加者は増加し、2019年には約1万7500人に達した。同時開催するhealthTECH JAPANは、疾病予防や健康管理・増進、介護・リハビリ、機能性食品などに関連する製品やサービス、特にアプリやデジタルツールなどを利用した技術などの交流の場として開催するものだ。製薬産業の間で、デジタルツールを活用しながら、創薬や再生医療だけでなく、予防や介護までを視野に入れた事業化を模索する動きが生じていることを背景に、同時開催することにした。

 この会見に、JBAの理事長として登壇したのが中外製薬会長の永山治氏だ。中外製薬元社長である上野公夫氏の娘婿にあたる創業一族で、1992年に社長兼CEO(最高経営責任者)に就任。2001年にはスイスのロシュの資本傘下に入ることを決断し、ロシュが資本の過半数を握りながらも、経営の独立性は維持するという“戦略的アライアンス”を締結した。永山氏は13年から6年間にわたってソニーの取締役会議長も務めた。

 ロシュおよびそのグループ企業である米ジェネンテックが創出した医薬品の日本での販売を担う代わりに、中外製薬が独自に創出した医薬品をロシュの販売網を通じて世界で販売するというこのアライアンス体制の下で、中外製薬は業績を大きく拡大させてきた。ロシュとの提携前の01年期末の売上収益は1651億円、営業利益は257億円で、国内10番手程度の中堅製薬企業だったが、19年期末の売上収益は6800億円、営業利益は2180億円の予想。株式時価総額は5兆円を超え、武田薬品工業に次ぐ業界2位に付けるまでになった。業績拡大を支えたのは、ジェネンテックおよび自社で生み出したバイオ医薬によるところが大きい。つまり、多くの日本の製薬企業がバイオ医薬への取り組みに出遅れたのに対して、いち早くバイオテクノロジーに対応したのが成功の一因でもある。

 18年に中外製薬のCEO職を社長の小坂達朗氏に譲り、今年、会長職も退任することにした永山氏が目下力を入れているのは、業界団体のトップとして日本のバイオ産業を振興することだ。19年には内閣府が設置したバイオ戦略有識者会議の座長として、およそ10年ぶりとなる日本のバイオ戦略に関する議論をリードした。ちなみに、バイオ戦略を日本が策定するのはこれで3度目だが、1度目、2度目のバイオ戦略は十分な実を結ぶことができなかった。

 現在、同戦略に基づいて、高機能バイオ素材やバイオプラスチック、バイオ医薬、デジタルヘルスなど9つの領域について、30年に目指すべき市場規模を想定して、そこに向けた法制度の見直しや技術開発などのロードマップを策定する作業を各省庁が進めているが、永山氏が座長を務める有識者会議はその進捗をチェックするとともに、6月により具体的な内容を盛り込んだ改訂版のバイオ戦略2020を発表するべく、議論を重ねているところだ。

 その永山氏に会見でバイオ産業の振興に向けた意気込みを聞くと、「日本の製薬産業はバイオテクノロジーへの対応が遅れた。そもそも製造業全体にベースとしているのが物理学なので、バイオテクノロジーのことを理解してもらいにくい。しかし、地球環境の問題や人類の健康のことを考えると、バイオテクノロジーはますます重要になる。現在、米国も欧州も中国も、バイオテクノロジーをベースとする産業化に力を入れているが、ここで日本が出遅れると出る幕がなくなるのではないかと心配している」と語った。

 中外製薬自体はバイオ医薬への取り組みにより成長軌道に乗ることができたが、日本の製薬産業も、その他の産業もバイオテクノロジーへの対応には出遅れている状況が続く。3度目の正直でバイオ産業の創出に成功できるか。業界トップである永山氏にはまだまだリーダーシップを発揮することが期待されている。

橋本 宗明

最終更新:1/12(日) 7:00
日経ビジネス

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事