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われわれはなぜ魅せられてしまうのか! 岩井俊二ワールドの映像磁力 <ザテレビジョンシネマ部>

1/14(火) 7:00配信

ザテレビジョン

来たる1月17日(金)より、岩井俊二監督の新作『ラストレター』が全国公開される。出身地の宮城県を初めて物語の舞台として選び、手紙の行き違いをキッカケに2つの世代の恋模様と、それぞれの心の再生と成長の物語が紡がれてゆく。キャスト陣には松たか子、豊川悦司、中山美穂らの名前が並び、さらに音楽担当は小林武史と聞けば、岩井監督のあれやこれやの過去作をすぐさま思い出すことだろう。

【写真を見る】当時21歳!『四月物語』に出演した松たか子

さて、その傑作群の中から『Love Letter(1995)』(1月17日(金) よる9:00 WOWOWシネマほか)、『スワロウテイル(1996)』(1月17日[金]よる11:00 WOWOWシネマほか)、『四月物語(1998)』( 1月17日[金]よる7:45 WOWOWシネマほか)の3作品が今回放送される。なるほど、これらに当たってから『ラストレター』を観るのは実に“正しい行為”だ。両者の間には一貫して持続している、確かな作家的なエッセンスが認められるからである。

それを仮に「岩井俊二の映像磁力」と呼ぶが、われわれを深く魅了してやまぬ、あのトーンとルック、生/性の浮遊感に満ちた登場人物たちの捉え方や、ごく見慣れた何気ない風景でさえもが輝きを放つ描き方は、何物にも比しがたい。

いわば、「映像に魔法をかけてしまう」のが岩井監督のやり方であるのだが、そもそも類いまれなセンスの持ち主で、学生時代に小説家、20代前半には漫画家を目指していただけあって、完成度の高いネーム(作品の設計図)と絵コンテを用意することも“魔法”の要素のひとつ。

が、そこからヴィジョンを共有しつつ膨らませ、イメージを具現化させていく随伴者の力もまた大きかった。例えば篠田昇の存在。岩井監督とはMV(ミュージック・ビデオ)時代からコラボレーションを始め、TVドラマ『世にも奇妙な物語 冬の特別編』の一篇「ルナティック・ラヴ」(1994)を皮切りに映画『花とアリス』(2004)までほとんどの岩井作品の撮影を担当したのであった。

もちろん今回放送される3作も手掛けており、岩井監督初の長編、中山美穂がひとり二役で神戸と小樽に住むヒロインを演じ、“2人”が文通で交流する『Love Letter』が当時珍しかった横長のシネマスコープ画面となったのは彼の勧めだ。

そもそも手持ちカメラは岩井作品の代名詞だったが、篠田昇もハンディカメラやステディカムを好み、独自にカスタマイズ、さらにミニクレーンを駆使してキャラクターごとの生理、息づかいにまで肉薄していった。

アジアの無国籍都市・円都(イェンタウン)を舞台にした群像劇『スワロウテイル』では、16ミリと35ミリを併用した篠田昇のカメラに小林武史の音楽も加わり、Charaが劇中扮するグリコをボーカルにしたYEN TOWN BANDの「Mama's alright」「She don't care」「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」などが作品世界の飛距離を一段と拡げた。

もうひとり、忘れてはいけないのが日本を代表するプロダクション・デザイナー、『花とアリス』でもタッグを組んだ種田陽平。円都の、魔窟のような巨大オープンセットは、従来の日本映画を完全に刷新するものであった。

大学入学のため北海道から上京し、東京で新生活を始めたヒロインの日常と恋心をみずみずしく綴った松たか子主演の『四月物語』は、彼女のミュージック・ビデオの依頼が先にあり、「空の鏡」のMV、さらにはビデオクリップ集「film 空の鏡」を発表してから映画づくりへと移行。

そんな工程からワン・アンド・オンリーな青春ストーリーが生まれたのであるが、ラストの雨のシーンは大仕掛け! “光のマエストロ”篠田昇のこだわりもあり、早朝に大型クレーンで高所から延々と、ひとつのストリート一帯に大量の雨降らしを敢行して岩井テイストの“魔法”を成立させたのだ。

叙情的かつ実験的で、変革者にして飽くなき挑戦者。同時代のクリエイターたちと共闘し、持ち前の飛び抜けたセンスだけでなく撮影技法ならびに創意工夫の数々が岩井俊二の“映像磁力の魔法”を支えている。

ちなみに、『ラストレター』の撮影監督は前作『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)に続いて神戸千木。2004年に52歳の若さで惜しくも他界した篠田昇のDNAを継ぐまな弟子との連続コラボ、である。

■ 文=轟夕起夫

ライター。「キネマ旬報」「クイック・ジャパン」「シネマトゥデイ」「シネマスクエア」「DVD&動画配信でーた」などで執筆。モデルとなった書籍「夫が脳で倒れたら」が発売中。(ザテレビジョン)

最終更新:1/14(火) 7:00
ザテレビジョン

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