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一瞬で命を奪う建物倒壊への「耐震化」をどう進めるか~少子高齢化にともなう老朽化する空き家問題と耐震対策~【阪神・淡路大震災25年目の真実❺最終回】

1/17(金) 18:00配信

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 阪神・淡路大震災から25年。6434人の犠牲者を出したこの地震の記録と記憶を来たるべき「大都市直下大地震」の教訓として生かしたい。NHKスペシャル取材班がものした『震度7 何が生死を分けたのか~埋もれたデータ21年目の真実~』を踏まえ、「命を守るために行動する」耐震化への対策を編集部が取材しました。キーワードは対策を行う当事者の「コスト」と「インセンティブ(誘因)」。特集の最終回は、経済的観点から問題提起します。

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◆耐震化対策はわかっているのに、なぜ行動できないのか

 建物崩壊による死者が全体の8割を超えた阪神・淡路大震災の被害状況。この建物が生命を奪うことに対する「耐震化」は、進んでいるのだろうか? 
 国土交通省の「住宅耐震化の進捗状況」によれば、1998年に68%だったものが、2013年には82%と14ポイント改善したが、残り18%の約900万戸が耐震性なしである。また同省の「多数の者が利用する建築物(ビルなど)の進捗状況」によれば、98年には75%だが、13年には85%と10ポイント改善するも、残り15%の約6万棟が耐震性なしである。

 6434人の犠牲者を出した25年前の大震災を経験したにも関わらず、「耐震化率の大きな要因は住宅の建て替えで、耐震診断や耐震補強はさほど進んでいないのが実情だ」(『震度7 何が生死を分けたのか』)と同省の職員も言う。

 なぜ、進んでいないのだろうか? 
 公共的にも耐震への対策はすぐにでもやらねばならないことは自明である。しかし、この対策のコストは誰が負担するのか? それは、耐震化されていない住宅、ビルの所有者である。
 所有者の大きなコスト負担問題。そこで行き詰まるのが「耐震化の壁」となることも確かであろう。
 彼らだけでなく私たちも「当事者」として日々生きることで汲々としており、「命を守る」という理念を相対化できるほど「お金」に余裕がないことも確かだ。この失ったら元も子もない「命」ですら生活の現実=経済の前には「キレイゴト」として棚上げされてしまう実情だ。
 改めてお金と手間の「コスト」負担問題は当事者以外は「他人ごと」になる。「命を守る」理念は無前提に正しい。しかし、自分ごとにならない「命のメッセージ」は残念ながら当事者には届かない。
 では、どうすればいいのか? 
 編集部は、「命を守る」ことに「資産投資」という補助線を引いて考えてみた。すると「生命を守る対策が資産(家・建物)を守り、活用する」というインセンティブ(誘因)になることがわかった。
 命を守る経済的帰結としての耐震化である。それは、行政よりも民間企業が行うサービスに「答え」を見出せないかという問いであり、私たち編集部は耐震化事業を行う企業を探した。

◆地震大国から「地震耐国」への資産運用

「私たちの目的は耐震補強を通じて安全な建物と安全な街を創造したいと考えています」そう語ってくれたのは、株式会社キーマンの代表取締役副社長の片山寿夫氏である。

「耐震化というのは、本当に大事であると同時に、コスト問題で先送りされてしまう傾向があります。
 特に1981年以前の旧耐震基準(旧耐震設計法)で建てられた老朽化建物は、阪神・淡路大震災でも60%を超えて(大破~小破まで)倒壊ならびに破損をしています(【図:建築年別の被害状況】参照)。
 また最近では特に高度成長期に建てられた老朽化建築物の空き家対策も社会問題化されてきました。耐震補強と老朽化問題を資産として再生させることが、所有者にとってもまた周囲の住民の安全にとってもメリットがあるのではないかと考えました」

 同社は基幹である「耐震」事業の他に「RE-do」事業がある。「RE-do」とは文字通り「再生する」の意味で、具体的には、「老朽化不動産」を長寿命化し、リニューアル(機能更新)やコンバージョン(用途転換)を行うことで建物のバリューアップを行い、さらに市場に沿ったビジネススキームの提案と運営のサポートを行うことで、「収益性の高い建物へ」と資産の再活用をすることである。重要なのは、改修コストを、利回りをくり込んだ「投資」へと考える視点の転換とサポートが、物件オーナーの「耐震化」のインセンティブとなるということだ。
 つまり、老朽化不動産をアパートやマンションなどにリノベーションしながら事業運営まで見込んだ「命も財産も守れる仕組み」なのである。
 特に少子高齢化に伴い深刻なのは、空き家問題であり、現在(2020年)の全空き家数約1000万戸(空き家率約13.5%)が15年後の2045年には、2倍の2000万戸(空き家率30.2%)を超えることが予測(野村総研調べ)される日本社会で、その老朽化した資産を安全にバリューアップさせるための対策を盛り込んでいる。
「もともと98年より建築耐震補強事業をはじめていました。特に子供の安全と地域住民の避難場所となる学校や多くの方が暮らすマンションなどの耐震補強を20年以上行っていました。そこに耐震対策と空き家問題はオーナーにとっては資産運用につながる点があると考えたのです」(前出・片山氏)
 何よりも「RE-do」事業で目を見張るのが、独自の視点で建物を評価する『RE-do』診断だ。構造図面より建物の耐震性を判断するだけでなく、補強する場所やその方法、補強に関わる費用や期間まで算出する手法である。
 老朽化不動産の耐震性の事前チェックや予算の算出に用いられ、通常の耐震診断の価格よりも安価に調査することができる技術である。

 実際に現場で視認させていただいた。現場は都内某所の中古マンションの耐震改修である。耐震補強工法は、使い勝手や外観を損ねない補強方法であり、適材適所に5種類の補強が採用されていた。街中の現場なので柱や壁、梁を重機を使わずに補強するものであった。
 現場へは同社営業部長の西山健次氏と同行した。

「建物の耐震性能を表す指標を『Is値=Seismic Index of Structure)』と言います。この診断値が、0.6より高いと崩壊、または倒壊する危険性が低く、0.3より低い場合は倒壊する危険性が高いと評価されます(国土交通省公示より)。

 今回はこの診断にに基づき主に、(1)柱を太くし、(2)柱の靭性(しなり具合)を上げ、(3)壁を厚くし、(4)鉄骨の筋交いを入れて、耐震性を上げました。やはり1981年以前の旧耐震設計法の基準で建てられた建物は、安全性のレベルでは低いことは確かです」

 しかし、老朽化した建物でもその建物に合った耐震補強をするだけで大きな安心安全を得ることができると西山氏は語る。

「住民の安全意識は、年々高まっていると思います。また居住者が住みながら補強工事もできることを意外に知らない方も多いかもしれません」

 例えば、不動産投資の一環として老朽化したアパートなどを、昨今流行っているインバウンド需要、外国人観光客への民泊施設としてこうした老朽化した物件をリノベーション=再生することなどで新たなビジネスチャンスとなるかもしれない。
 こうした投資として活用する目的、耐震化を「手段」として取り組み、安心と安全に貢献することもできる市場での取り組みが、耐震化をお題目にさせないためにも重要な視点だと思われる。

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最終更新:1/18(土) 6:06
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