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論説コラムー障がい者雇用に求められる発想の転換

1/20(月) 10:51配信

オルタナ

障がい者雇用促進法による企業の障害者雇用が曲がり角に来ている。SDGsやパラリンピック人気という追い風もあって社会の理解が進み、障がい者雇用数は2018年度実績でみると、対前年比で7.9%増の534、769人、実雇用率も2.05%と過去最高を記録した。一方で、法定雇用率を達成した企業の割合は前年を大きく下回る45.9%となった。納付金という「罰金」を払って法律を守らない企業を事実上野放しにしているに等しい。これ自体がゆゆしき社会問題、解決すべき社会的課題といえないか。


障がい者雇用はどの企業も苦労している。範を垂れるべき中央省庁でさえ、42年間にわたって障がい者雇用数を水増ししていたことが2018年に判明している。

元々大企業に比べ中小企業は対応が遅れている。東洋経済「CSR企業総覧」(2019年版)によると、雇用率ランキングの1位は就職・転職サービスのゼネラルパートナーズ(雇用率=20.9%)、2位が食品トレーのエフピコ(13.8%)。小回りの良さを生かして「福祉ではなく戦力」として先進的な取り組みをしている中小もあるものの、全体的にみると経営に余裕がないところが多い。大企業の場合は、ノウハウの蓄積もあり本社や工場で実績も積んできたが、進展すればするほど障害者向けの業務の切り出しの限界、職場内での軋轢、コミュニケーションの難しさが浮き彫りになってきている。

現在2.2%の法定雇用率は2021年には2.3%に引き上げられる。精神障がいは増加の傾向にあり、海外の例をみても将来的には5%程度にはなるとみられる。

こうした状況の中で、厚労省はあくまで企業の中で仕事を見つけてほしいという立場だが、本当にそれだけで問題は解決するのだろうか。確かに法の趣旨は障がい者が健常者と同一の職場で助け合っていくことを想定している。しかし、一歩踏み込み法の真の狙いを考えてみると、障がいを持つ人たちが差別されることなく、自分の能力を生かして楽しく働くことを目指しているのではないか。法律ありきではなく、障がい者の雇用問題が企業にとって解決困難なひとつの社会問題であるとの視点からとらえ直すべき時期にきている。

障がい者の自立のための施設として長い歴史のある太陽の家でもオムロンなど多くの企業が本社から離れた大分県で他社と同じ敷地に同居した形をとっている。大手企業の中には特例子会社を設立することで法定雇用率を達成している企業も多い。こうした様々な手法を駆使した多能なアプローチを模索すべきだ。

そうした問題に一石を投じているのが、貸し農園というアイデアである。働きづらさを抱える人たちに雇用の機会を与えるソーシャルビジネス志向のエスプールプラス(本社東京・千代田区)は障がい者の就労を目的とした企業向け貸農園「わーくはぴねす農園」を始めた。新たに開発したサービスを複数企業が共同で利用するシェアリング型のアウトソーシングビジネスをうたっている。自社では障がい者に適した職場を提供できない企業と、農業で自分の能力を生かしながら企業の社員という安定した保障を得たい障がい者をマッチングしている。

現在、自動車、製薬、証券、IT、アパレルなど240社が利用、1,400人の障がいを持つ社員が誕生している。愛知県豊明市のように積極的に農園を誘致する自治体も出てきた。農園は千葉県を中心に18あり、雇用形態は正社員だけでなく非正規、パート等さまざまだが、およそ月額10万円の給与を支給されている。

農園でとれた野菜は当初の構想では販売して利益を確保する予定だったが、出荷までの段取りや集中作業の負担が重く感じられることがわかり断念。本社の社員食堂で使ったり、社員向けに配布や販売を行っている。本社の担当部署の人が定期的に訪ねてくるほか、農園での研修を通して一般社員と障がい者社員との交流もある。
こうしたアプローチについては、本来は会社の業務内で雇用すべきで、一種の抜け道といった批判もありうる。実態をより知るため現地を訪問した。

JR船橋駅から車で10分。高根町の船橋ファームは2016年オープン。6番目のわーくはぴねす農園だ。一万平方メートルの敷地にトーヨータイヤ、ドトールコーヒーなど24社、96人の障がい者がハウスの養液栽培で小松菜、白菜、キャベツ、ニラ、ネギ、メロン、スイカ、トマトなど40種類の野菜類を生産していた。企業側の負担は、人件費や農園利用料、野菜の種代、備品を含め、一人当たり月額25万円程度だという。

長さ30メートルほどの畝で監督者の下、3人一組で働いている。松戸市出身のダウン症の青年(25)はトーヨータイヤに就職して4年目だが、「太陽のもと農業の仕事ができるということ自体が楽しい。先日、趣味のトランペットをニューヨークで吹いてきた」と充実した生活を満喫している様子。本社の人も頻繁に来てくれるという。隣の同社社員、船橋市出身の発達障がいの青年(20)は「ここにきて8か月。以前は放送社の空調の生産。修理をしていたが、体力がきつくやめた。今は、仲間といっしょに水菜やベビーリーフを育てていて楽しい。この仕事を続けたい」と語る。

ハウス内には、社員との交流写真や、送った野菜を使って社員がつくったおいしそうな料理の写真がはってある。自分たちの育てた野菜が受け入れられ、役に立っていることを感じることがここで働く日々のエネルギーになっている。

このように現場を見る限り、貸し農園は障がい者雇用の未達成という社会問題を解決するひとつの選択肢としては有効に思える。雇用した会社と障がい者社員がいかに建設的で信頼感のある関係を構築できるかが今後の課題といえよう。 (完)


◆原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍し日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門はCSR論、NGO・NPO論、社会起業家論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など多数。

最終更新:1/20(月) 11:03
オルタナ

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