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山口の限界集落で起きた5人連続殺人事件。その複雑で、面倒で、しばしばつまらない「事実」を丹念に見つめていくこと【高橋ユキ『つけびの村』】

1/20(月) 7:03配信

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火事は野次馬を群がらせ、フェイクニュースは大衆を引きずり回す

2013年7月、14人が暮らす山口県の集落で5人の遺体が見つかった。5人は全員撲殺。そのうち3人が住んでいた家屋2軒は放火され、「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という犯行声明のような奇妙な張り紙も見つかった。その張り紙を自宅の玄関脇に貼っていた保見光成(以下、保見)が容疑者として逮捕された。

保見は逮捕当初には犯行を認めていたものの、山口地方裁判所での初公判ではこれを翻し無罪を主張。精神鑑定を行った結果「妄想性障害」があると判断され、鑑定人によると「両親が他界した2004年ごろから、近隣住民が自分のうわさや挑発行為、嫌がらせをしているという思い込みを持つようになった」という。

逮捕後、県警が山中で発見した保見の持ち物だとされるICレコーダーには、奇妙な言葉が録音されていた。この村で一体何が起こったのか……。

「ポパイ、ポパイ、幸せになってね、ポパイ。いい人間ばっかし思ったらダメよ……。
オリーブ、幸せにね、ごめんね、ごめんね、ごめんね。
うわさ話ばっかし、うわさ話ばっかし。
田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない。
お父さん、お母さん、ごめん。
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、ごめんね。……さん、ごめんなさい……。
これから死にます。
犬のことは、大きな犬はオリーブです」(P15)

高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)は、この事件の真相を探りながら、現代社会における「真実」のあやふやさと、それを追い求めるライターの葛藤が素直に吐露されている。

2017年1月に、東京で週刊誌の記者をしつつ、主に殺人事件の公判を取材するフリーライターとしても活動していた著者のもとに、ある月刊誌の編集者から前述の「山口連続殺人事件」の追跡取材の依頼が舞い込む。保見が住んでいた山口県周南市金峰地区にかつてあったという、夜這いの風習について取材だった。こうして東京に暮らす著者は、いわば「ど田舎」である限界集落の世界に踏むことになる。

「「限界集落」とは、社会学者の大野晃氏により1990年代に提唱された概念で、その定義は「人口の50パーセント以上が65歳以上の高齢者となり、社会的共同生活の維持が困難になった集落」とされている。これに照らせば事件当時、金峰の郷集落はまぎれもない「限界集落」だった。8世帯12人のうち、65歳未満のものは保見の他に2人しなかった。」(P79)

著者が取材を進めた結果、保見が話していた「うわさ話」は実在し、その発信源は、週に一度開催されるコープ(生協)の寄り合いであることがわかった。そして、うわさ話の矛先はもちろん保見にも向けられていた。ど田舎で展開される、虚実入り混じった噂話に渦巻く人間関係に、著者はフェイクニュース全盛の現代社会の本質を見出していく。

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最終更新:1/20(月) 7:03
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