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ピンク・レディーの“完成された音楽”が高音質で蘇る。ハイレゾ化のキーマン川崎 洋氏インタビュー

1/20(月) 12:01配信

PHILE WEB

1970年代後半、ミリオンヒットを立て続けに飛ばし、社会現象を巻き起こしたピンク・レディー。彼女たちが1977年から79年の全盛期にリリースしたアルバム12作品(スタジオ録音6作品、ライブ録音6作品)が、12月11日(水)よりe-onkyo musicにて一斉配信されている。

リマスタリングを担当したのは、ビクタースタジオFLAIR MASTERING WORKSの川崎 洋氏(さきは正しくは山へんに立、可)である。全曲オリジナルのアナログマスターテープから、96kHz/24bitのデジタルリマスターを制作した。

その川崎 洋氏に、これらの作品の制作の経緯や聴きどころをお聞きする機会を得たのでレポートしたい。担当A&Rのビクターエンタテインメント森谷秀樹氏にも同席いただいた。

■歌って踊るアイドルの先駆け、洋楽の要素を持ち込んだピンク・レディー

――私(記者)はピンク・レディーのヒットシングル曲は全曲踊れる世代なので、今回のハイレゾ化がとても嬉しいです! 

配信ラインナップは『ペッパー警部』などスタジオレコーディング作品が6タイトル、『チャレンジ・コンサート』などのライブレコーディングが6タイトルで、『インU.S.A』という世界デビューアルバムもありますね。

当時、ミイ、ケイちゃんはフォークソング全盛期に突然現れて、ダンサブルで、祭りっぽい歌詞の内容で日本中を元気にしてくれましたね。あらためて、ピンク・レディーはどんな存在だったのか、教えていただけますか?

川崎 雲の上にいるお姫さまのような2人でした。豪華なオケといっしょに、今まで聴いたことがない音楽を歌っている。歌詞も曲もです! 音楽もそうですが、衣装もね。僕は高校生でしたがピンク・レディーが出てきた時に、「え?! 何? 脚とか出しちゃって」って(笑)。他のアイドルとは別次元の、まさにUFOに乗ってきたようなすごい人たちでした。

当時僕は、洋楽のロックやクロスオーバー(今でいうフュージョン)も聴いていました。それに通じるものもあって衝撃的でした。

森谷 1976年に「ペッパー警部」でデビューして、2ndシングル「S・O・S」から10th「カメレオン・アーミー」まで、9作連続オリコンチャート1位のミリオンセラーという、最近AKB48に破られるまでずっとその記録を維持していた、すごい人たち。アルバムには、実は洋楽のカバーもたくさん入っているんです。

――格好も振り付けも奇抜でしたしね。

川崎 何が奇抜って、タイトル、詞、曲。音楽の素人である高校生が聴いても「UFOって……?」ってなるじゃないですか。カッコいいダンスとね。当時から阿久 悠さん、都倉俊一さん、すごいんだなって思っていました。

森谷 阿久 悠さんが作詞を手掛け、都倉俊一さんが作曲。当時の担当ディレクター飯田久彦さんがザ・ピーナッツの次の2人組として売り出そうとしました。

高校生のとき、ケイさんがミイさんに声をかけたそうですね。『スター誕生』ではオーバーオールを着たフォークっぽい2人組でしたが、フォークではダメだ、おしゃれでダンサブルなアイドルにしよう、と方針を決めたようです。2人の希望も実は、洋楽っぽいものをもともとやりたかったそうです。

歌謡音楽史的に、「歌って踊るアイドルグループの源流」といえるのではないでしょうか。プロデューサーとして、つんく♂さん、秋元康さんがその流れを継ぎましたね。

――奇抜な内容なのに、本人たち、全力じゃないですか。だからカッコいい。だからちっともばかばかしくならない。

川崎 そのカッコよさを今回、表現したかったのです。ハイレゾというフォーマットも含め、音楽としてカッコイイピンク・レディーをどう創るかということを念頭に置いて音作りしました。

――今回のハイレゾ化にあたっては、40年前のアナログテープを使ったのですよね。

川崎 はい。2006年に一度CD化していますが、今回はアナログからハイレゾマスターを作ることになりました。しかし、マスターの特定に時間がかかりました。当時はLPとカセットが出ていたのです。曲目や曲数が違っていたりするので、どっちを使ったらいいの? ということで、森谷ディレクターとひとつひとつ調べました。また、テープを出してみると、どこかしらつなぎ目があるのです。そのつなぎ目を留めているスプライシングテープの糊が経年変化で溶けていて、テープがずれて音が一瞬切れたようになっている。それを修正するという作業が必要でした。

――つなぎ目はデジタルで修正したのでしょうか。

川崎 はい。もとはアナログテープに記録されたものを、アナログエフェクターとデジタルエフェクターを使いながらDAWで最終的に96kHz/24bitのファイルを作っています。音がなくなってしまっているところは、デジタルにしてから、こことここ、キュッてするのです。やること自体は苦ではないのですが、見つけた時、愕然となりましたね(笑)。

ライブなどには何カ所かあるんです。それに、不自然なエディットもあるんですよ。パチパチパチパチ、ダーン、みたいに、拍手の余韻なく、次の音楽が始まっている。これはうまくクロスさせることで修正できるんですけれども、間は完璧には直せない。でも、これがオリジナルだし、ある程度はこれで行こう、と。当時のエディットはそれしかできなかったのです。

森谷 カセットの方が収録できる時間が長いので、ライブのアルバムはカセットの方が曲が多いものもあります。2006年にCDにしたときにコンプリートにしましたが、その時はハイレゾにしていない。今回アナログテープからデジタル化しているので、カセットとLPを合体させていることになります。

――96kHz/24bitにされた理由は?

川崎 96kHzはスタンダード。デジタルのアウトボード(エフェクターなど)に192kHz対応はほぼ存在していないのです。いつも使っている機材でないと自分の音が出てこないので、96kHzとしました。

――オーディオファンは、より一層の原音再生を求めて機器選びをしていると思いますので、モニター機器にも興味があります。どのようなものをお使いになりましたか。

川崎 モニタースピーカーはジェネレックのパワードスピーカーです。ところで、いまおっしゃられた「原音」って、皆さん、何をもって原音と考えておられるのでしょう? スタジオで録音する時の、生のピアノの音、弦の音が原音なんだ、という人もいますが、私は、それは原音であると同時に、商品としての原音ではないと思っています。音楽を作っていく過程のなかでマルチで録音し、ミックスして2ch、あるいは5.1chになった時点、いや、それよりさらにマスタリングして世の中に出るための状態になった時の音、それが原音だと思っています。

――マスターの音ですね。

川崎 はい。つまりここ(マスタリングスタジオ)で聴いた音がある意味原音です。コンシューマーの機械を使ってその音が再現されれば、その機械はベストなオーディオ機材ということになるでしょう。ハイエンドオーディオは、ここよりクオリティが高いはずです。ノイズも少ないでしょう。オーディオマニアにとっては、この部屋のようにこんなにケーブルが這っていると音が悪くなると感じるでしょう。でも音を作るためにはこれだけのケーブルも必要なのです。

こことは違う場所、自宅でも、僕たちが作った音のイメージが伝わったら、この音は原音に近いね、というわけです。僕自身が聴かないと、それもわからないわけです。

――そうですね。リスナーはここの音を知ることはできません。ただ、実際に再生してみると、マスタリングスタジオで鳴っていたのは、こんな感じなんじゃないか、と感じられる指標があるのだと思います。川崎さんも、マスターを完成させるとき、ライブの現場にいたのならば、こういう風に聴こえたのではないかと想像しながら、リマスタリングされているのではないでしょうか。

川崎 ライブ会場でこういう音がしていたんじゃないか、というものは、僕の頭のなかにはとりあえず、ないのです。自分がライブ会場に行ったとします。イメージと違うなと思った、とします。このバンド、いつものイメージじゃないな、と。これを商品化しましょうとなった時に、その音を再現させるかというとそうはしない。この音は、気持ちいいとか、かっこいいとか、あと、メインは誰なのか、と。そういうことに重きをおいて、作品を作っていきます。そのステージがこうだったから、こう感じられた、というイメージに従うということではないんです。会場の広さ、奥行きは考えます。演奏がかっこいい音で出てきたらいいのでしょうけれど、その時、あまりボーカルが聴こえなかったよね、という時に、聴こえなかったとおりに作るのはナンセンス。ライブを再現するんじゃなくて、ライブなんだけれども、オーディオCDと同じように聴こえるように心がけているんです。

もってこられた音をなるべくそのままにしようということもあれば、もっとこうした方がいい、ということもあります。ここ(スタジオ)で、ジャッジしている部分があります。自分は、音楽がかっこよくなれば、と考えています。今回のピンク・レディーのライブも何枚かありました。当時どんなテープレコーダーを回したかわからないんですが、8chか16chのマルチテープレコーダーで録って2chにアナログミックスしたのではないでしょうか。

森谷 ピンク・レディーは忙しすぎたので、特に初期はレコーディングの時間がなく、ライブアルバムが多いんです。

――楽曲をお聴きになって、こういう素晴らしさを生かしたいと感じた部分はどんなことでしょう?

川崎 あの人数のビッグバンドが「せいの」と同時録音。ドキドキするものがあるな、と思いました。ビッグバンド・オーケストラを超えた、カッコいい演奏をしているんですよ。それをぜひ聴いてもらいたい。もちろんミイさん、ケイさんの歌もバッチリだと思います。

森谷 川崎さんを、ピンク・レディーのふたりが信頼しているというのも大きいのです。2010年にピンク・レディーは『イノベーション』というアルバムを出しました。オリジナルのアナログのマルチテープをすべてデジタル化して、いまなら低音をもっと出した方がいいんじゃない? などと言ってリミックスをしました。歌は2010年の声で2人が歌い直したんです。その時にマスタリングをしたのが川崎さんです。2人は川崎さんをとても信用しているのです。ピンク・レディー・サウンドを熟知しているということで。

■バックのたくさんの楽器の迫力とフロントの歌のうまさ

――では、音を聴かせてください。オリジナルのアナログテープからのデジタルトランスファーと、川崎リマスターバージョンを聴かせていただきたいです。

川崎 再生してみましょう。アナログからのデジタルトランスファーをかけるときが1(指を1本立てる)、僕がリマスタリングしたバージョンをかけるときが2(指を2本立てる)です。

~「ペッパー警部」を聴く(1と2を両方)~

まずは(1)。オリジナルのアナログマスターをデジタルトランスファーしただけの音を再生する

次に(2)。川崎氏がリマスタリングした音を再生する。

――うわ~、ものすごくかっこいい! (1)より(2)の方が、 ぐわっと広がりが出ています。低域がどっしりとして、しかも低域の解像度が高いと思います。

川崎 この曲はスタジオ録音で、もともとマスターの音がすごくかっこよくて、非常に高いエンジニアリングをやられている。すごい録音だなあと思いますね。

――すごく技術の高いいろんな人のいろんなパワーが結集している感じです。

川崎 同録ですからね。歌も。

――もうひとつライブ録音のものを聴きたいです。今日は私、胸が高鳴っております!

~『アメリカ!アメリカ!アメリカ!』より「ザッツ・ミー」を聴く~

まずはオリジナルのアナログマスターをデジタルトランスファーしただけの音(1)を再生。

次に川崎氏がリマスタリングした音(2)を再生。

――おぉ、こんなにたくさんのブラスがいて豪華なメンバーで演奏していたなんて。(2)より(2)の方が、ふたりの声が前に出て来ているし、低域の下支えが増して迫力が全然違います。

川崎 そう言ってもらえると嬉しいです。低域ひとつとっても、いろんな細かいことをやっています。具体的に説明するより、こうしたかったということを音で確認してもらった方が早いですね。低音がグワーンッときて、しかもその低音の解像度が高くて、2人の声がよく聴こえてくるようにしました。上の方も輪郭がよく出るようにしました。音源によってはできない音源もあるのです。高い方を出したくても、これ以上やったら弊害が出てくるから無理だなあというものとか。一概にここまでやれるとは言えない。演奏自体、かっこいいでしょう。

――アース・ウインド&ファイアーみたいでしたね。お金もかかっていただろうなと。

川崎 確かに。ブラスが出てきて、弦もあって。アメリカのライブ盤と、日本のライブ盤とで、録音チームも違ったと思います。この「アメリカ、アメリカ、アメリカ」に関しては、アレンジは前田憲男さんで、指揮者は日本人がやっているんです。ミュージシャンは現地の方々。当時78年。ピンク・レディーがアメリカに行くのは79年なので、78年のこれを経て、79年に世界ビルボードのトップ40入りをしました。「キス・イン・ザ・ダーク」が全米37位。坂本九さんの「上を向いて歩こう」以来の快挙でした。ではその「キス・イン・ザ・ダーク」も聴いてみましょう。

~『ピンク・レディー・イン・USA』より「キス・イン・ザ・ダーク」を聴く~~

アナログマスターのデジタルトランスファー(1)をそのまま再生。

川崎氏によるリマスターバージョン(2)を再生。

――全然違いますね。オリジナルのときは狭いけれども、リマスターバージョンはぐっと広がります。そして低域が違います。バスドラムが決まってます! かっこいい!

川崎 (1)だと、間奏からミイちゃん、ケイちゃんが入るところ、あんまり変わっていないでしょう。でも(2)だと、2人が出てくるとき、前に出てきて、オケもドシッとする。それにハイハットも、(1)ではきつかったけれども、(2)でもう少し整理して聴こえるようにしました。

――2人、歌がうまいですねぇ。こんな声を出すんですね。ハイハットも綺麗ですね。

川崎 ピンク・レディーもそうなんですけど、桜田淳子さんとか麻岡めぐみさんとかからだと思うんですけれども、洋楽チックになっていますよね。モータウン系という音作りと言えるかもしれません。

――面白い聴き比べでした! 最後に川崎さん、ピンク・レディーのリマスターを手がけていかがでしたか?

川崎 ピンク・レティーは僕にとっていまだに雲の上の人たちなんですが、若い人たちに、40年前、こういうものをもうやっていたんだよ、と。また、当時を知っている人たちにも、もちろん聴いてもらいたい。その時は皆、ピンク・レディーの歌しか聴いていなかったかもしれません。でも今になって、音楽として聴くと、すごく考えられた、完成された音楽に仕上がっている。そこを皆に聴いてもらいたいです。

――私も、再発見が多かった仕事でした。

川崎 当時は娯楽番組のおちゃらけの部分が大きく見えていましたが、音楽として本当に個性があったピンク・レディー。それを今の時代に伝えるのはビクターなのかなって思います。

――たくさんの人にピンク・レディーのハイレゾを聴いて、その新発見をしてほしいですね。今日はありがとうございました。

■ピンク・レディー オリジナル・アルバム 配信ラインナップ

1.ペッパー警部 (1977.1.25オリジナル発売)
デビュー後初めてのファースト・アルバム(スタジオ・レコーディング)

2.チャレンジ・コンサート (1977.6.5発売)
1977/3/31芝郵便貯金ホールにて収録

3.サマー・ファイアー'77 ( 1977.9.10発売)
1977/7/26田園コロシアムにて収録

4.バイ・バイ・カーニバル (1978.3.5発売)
1977/12/27日本武道館にて収録

5.アメリカ!アメリカ!アメリカ! (1978.6.25発売)
1978/4/21,22ラスベガス・トロピカーナホテルにて収録

6.‘78ジャンピング・サマー・カーニバル (1978.9.5発売)
1978/7/23後楽園球場にて収録

7.星から来た二人 (1978.11.5発売)
全曲スタジオ録音のオリジナル・アルバム

8.活動大写真 (1978.12.25発売)
初主演映画のオリジナルサウンドトラック盤

9.ライブ・イン武道館 (1979.2.5発売)
1978/12/25日本武道館にて収録

10.ピンク・レディーの不思議な旅 (1979.8.5発売)
全曲書き下ろしのスタジオ録音によるコンセプト・アルバム

11.インU.S.A  (1979.9.5発売)
マイケル・ロイド プロデュースの世界発売アルバム

12.WE ARE SEXY  (1979.12.1発売)
ポップスのカバーを収録したスタジオ録音のアルバム

季刊Net Audio編集部・野間

最終更新:1/20(月) 15:50
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