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「リゴレット」に学ぶ、女性の心に火をつけながら放置する罪の重さ

1/24(金) 20:12配信

GQ JAPAN

スマートに口説くから相手を傷つける? オペラ評論家、香原斗志によるヴェルディの「リゴレット」のススメ。

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下手に真剣な表情を見せると

このごろは女性を必死に口説いていたらセクハラ扱いされてしまった、というケースが少なくないようだ。ま、アピールしているつもりが不快感を与えているだけだった、というのではシャレにならない。だが、これから述べる行いは、女性への罪の深さがたぶんセクハラの比ではなく、男たるのも、心しておいたほうがいい。

その行いとは、女性の心に一方的に火をつけておきながら、放置することだ。それがどんな悲劇につながるか。ヴェルディのオペラ「リゴレット」を観て、学んでおいたほうがいい。

このオペラは、北イタリアの都市マントヴァの公爵宮殿で道化を務めるリゴレットという男が主役で、恋愛の反面教師は、彼が仕えるマントヴァ公爵だ。これがけた外れのプレイボーイで、オペラの冒頭から、ある伯爵の奥さんにちょっかいを出せば、ある伯爵の一人娘をもてあそんだことがわかる。未婚だろうが既婚だろうが、とにかく片っぱしから女性に手をだし、

「あの女もこの女も、俺の周りにいるどの女とも変わらない。俺はほかの女を差し置いて一人の女に気持ちを独り占めにさせたりはしないよ」

なんて能天気に歌う。たぶらかされた女性たちは、公爵の男の魅力にほだされたのか、それともセクハラやパワハラまがいの圧力を受けたのか。その両方だったのだろう。でも能天気なだけなら、女性もそういう男だと判断できるからいいが、ときどき真剣な感情を覗かせるからたちが悪いのだ。

心の火を消せない

公爵が誠実ぶって接したのは、ジルダという娘だった。教会で見かけたジルダの家を突き止めて、自分は貧しい学生だと偽って口説くのだが、実はジルダは、リゴレットが悪いムシがつかないように囲っている箱入り娘なのだ。しかし、親としては、無菌室のような部屋に囲い込んでいるつもりでも、そこは恋に焦がれる年ごろの娘。二枚目の男が現れて、「あなたに本気なんだ」なんていわれた日には、心を消火困難なほどに燃え上がらせてしまうだろう。

だが、ジルダの幸せ気分は、わずかな間しか続かない。父のリゴレットは日ごろから廷臣たちの恨みを買っていた。廷臣たちはジルダがリゴレットの愛人だと勘違いし、リゴレットへの憂さ晴らしと公爵への気遣いを兼ね、彼女をさらって公爵に提供する。そこでジルダは、自分が惚れた「貧しい学生」が公爵だと知らされたうえに、性的にもてあそばれた挙句、捨てられてしまう。

それでも、公爵の本気モードで口説かれたジルダの恋は冷めないのだ。昨年、山里亮太と結婚した蒼井優のように恋愛の場数を踏んでいれば、公爵の気まぐれに心を動かされたとしても、自分にふさわしい男なのかどうか冷静に判断できただろう。でも、恋愛初心者のジルダは、一度ついた心の火を消火する方法を知らない。

結論をいえば、リゴレットは娘をもてあそんだ公爵への復讐を近い、刺客を雇って殺そうとするが、公爵に心底惚れたままのジルダは、公爵の身代わりになって死んでしまう。ゲーム感覚で少女を口説いたツケは、重いのである。

ちなみに、1月30日にはイタリア文化会館で、パルマ王立歌劇場の上演のライブビューイングとして、「リゴレット」が上映される。現代最高のリゴレットと称されたレオ・ヌッチ(バリトン)が圧巻であるほか、フランチェスコ・デムーロ(テノール)が美男、美声で女たらしの公爵を、ニーノ・マチャイゼ(ソプラノ)も見目、声ともに麗しきジルダを好演。2月上旬には東京文化会館ほかで、藤原歌劇団の公演もある。

いずれにせよ、セクハラにならないスマートな口説きこそ、場合によっては罪深いと、肝に銘じたほうがいい。

PROFILE
香原斗志(かはら・とし)
オペラ評論家。イタリア・オペラなど声楽作品を中心にクラシック音楽全般について音楽専門誌や公演プログラム、研究紀要、CDのライナーノーツなどに原稿を執筆。著書に『イタリアを旅する会話』(三修社)、共著に『イタリア文化事典』(丸善出版)。新刊に「イタリア・オペラを疑え!」(アルテスパブリッシング)。毎日新聞クラシック・ナビに「イタリア・オペラの楽しみ」、「La valse by ぶらあぼ」に「いま聴いておきたい歌手たち」連載中。日本の城、教育にも造詣が深い。

文・香原斗志

最終更新:1/24(金) 20:12
GQ JAPAN

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