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1万円の線香花火がヒット デザインで製品ではなく企業を変えた

1/24(金) 6:00配信

日経クロストレンド

 ユニークな発想とちょっとした工夫で新商品やサービスを開発し、成功している中堅中小のイノベーター企業を追う本連載。今回は、1万円の線香花火がギフト需要で売れるなど、玩具花火の分野で次々と新製品を開発する筒井時正玩具花火製造所(福岡県みやま市)を取り上げる。

 価格が1万円もするギフト向けの高級な線香花火や、関東・関西の歴史を意識した線香花火、さらには色鮮やかな輝き見せる線香花火など、子供向けの玩具花火の製造で新たなブランドを開発・育成することで、業績を伸ばした企業がある。福岡県みやま市にある筒井時正玩具花火製造所だ。

 1929年に創業し、線香花火など子供向け玩具花火の製造を続け、2019年には90年を迎えた老舗の企業。だが中国産の安価な線香花火が台頭し、卸向けにビジネスを展開してきたため、製品に自信があっても値下げせざるを得ない状況が続いていたという。そこでデザインをゼロから学んだ他、外部デザイナーの手も借りて、09年から独自ブランドの製品を次々に投入した。

 線香花火の歴史的背景や意味を掘り起こして製品を企画し、情報発信を展開。本社工場に隣接する場所に「ギャラリー」も設置し、線香花火の体験やワークショップを開催できるようにすることで、企業や製品をPRしている。そうした施策で卸を通さない販路も確立でき、今では新ブランドの製品が、売り上げの半分を占めるまでに成長した。

 「国内から線香花火の製造がどんどんなくなり、このままでは日本の線香花火の技術は消えてしまう運命にあった。日本の線香花火は、中国産と比べて火の玉が大きく、並べて安売りするものではないと感じていた。そこで新ブランドをつくろうとした」。こう語るのは、三代目を継承した筒井良太氏と筒井今日子氏だ。なぜ新ブランドを育成できるようになったのか。その背景には、デザインに対する強烈な体験があったという。

●デザインをするとはどういうことかが分かった

 新ブランドをつくるためのヒントを得ようと参加したのが、地域が主催するデザインのセミナーだった。「それまで自分たちでデザインすることはなく、 デザインとは全く触れたこともなかった。 新製品の開発に向けて色彩感覚を身に付けたいと思ってセミナーに参加したが、内容は全く異なっていた。当初は何が何だか訳が分からず、早くやめたいとさえ考えていた」(良太氏)という。

 デザインのセミナーなので、製品の色や形を教えるものとばかりと思っていたが、あるテーマを与えられて意味を考えさせるなど、デザインとは関係ないような内容ばかり。優れたデザインの事例を参考にしたかった参加者は、セミナーの途中で帰ったという。

 「今になって思えば、セミナーでの経験の意味がすごく理解できる。色や形がデザインだと認識していたが、それは表面的な捉え方だった。製品ではなく会社の在り方を変えないといけない。線香花火ではなく会社をデザインする必要があった。会社の価値を高めるためにブランドがあり、そのためにデザインがあることが分かってきた」(今日子氏)

 その後は文字通り再スタート。なかにわデザインオフィスのデザイナー、中庭日出海氏からアドバイスを受け、線香花火に懸ける自分たちの思いを新製品に反映させていった。中庭氏は筒井氏へのヒアリングを重ね、日本の線香花火が持っていた火花の特徴を新たな価値と考えた。1 万円の線香花火にも職人の高度な技術が投入されており、展示会で紹介するとバイヤーに注目されてギフト需要として売れるようになった。

 「デザインの力で地域の伝統産業をよみがえらせたい」と期待する人は少なくない。しかし単に製品パッケージの色を変えたり、見た目をきれいにしたりするだけでは、一時的に売り上げは伸びるかもしれないが、新しいブランドの育成にはならない。伝統産業の良さを生かしながらも、現代に応じた製品を開発し、それを新たなブランドにまで発展させることができれば、企業はもっと強くなるはず。筒井時正玩具花火製造所は、そうした成功例の1つといえるだろう。)

大山 繁樹

最終更新:1/24(金) 6:00
日経クロストレンド

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