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天と地ほども違う! 日米プロ野球の春季キャンプ事情

1/25(土) 11:02配信

FRIDAY

間もなくプロ野球はキャンプのシーズンを迎える。至近距離で躍動するプロ野球選手を見ることができるのは、キャンプならではの至福の時間ではある。
NPBの「キャンプ」は、MLBの「スプリングトレーニング」に範をとったものだが、その中身は天と地ほども違っている。

レイズに入団が決まった筒香嘉智。背番号はDeNA時代と同じ25。入団会見では英語とスペイン語で挨拶して、報道陣を笑わす余裕を見せた

日本のプロ野球では「春季キャンプ」とは端的に言えば「合宿」だ。
12月、2月は「野球協約」によってウィンターリーグなどの例外を除いて球団は選手にユニフォームを着せることも、練習させることもできない。2月1日にようやく解禁となって、球団は選手に野球をさせることができるのだ。もっともこのルールも「合同自主トレ」で骨抜きになってはいるが。

今の春季キャンプ地は沖縄、宮崎、高知の3エリアに集約されている。
各球団は、新しい顔ぶれを含むメンバーでの練習を開始し、新バージョンのチームを作っていく。レギュラーの座が安泰な選手もいれば、ポジション争いをする選手もいる。若手や新人選手の中には「一軍」をかけて生き残りの競争をしている選手もいる。二軍では「支配下登録」を目指して「育成枠」の選手たちも競争する。
ただ、NPBのキャンプでは選手の身分=ステイタスは、決まっている。レギュラーを外れてもチームの一員であることには変わりがない。
例外的に、前年自由契約になって所属が決まらない選手や、外国人選手などで、キャンプでテストをして契約をする選手がいる。一昨年、ソフトバンクを自由契約になって春季キャンプ中にテストを受けてロッテに入団が決まった大隣憲司(現ロッテ二軍投手コーチ)などがその例だ。
しかし、そういう選手は極めて少ない。全体的にみれば春季キャンプは「今年一緒に戦うことが決まった選手たちが、ポジションや役割を固め、結束を促すために行う合宿」と定義できる。

MLBのキャンプ(スプリングトレーニング)は似て非なるものだ。まず、スタート時期は2月1日ではなく2月中旬だ。投手陣は野手よりも数日早くキャンプインする。キャンプ地はフロリダ州とアリゾナ州の2ヵ所。
キャンプインする選手のステイタスは3つ。
(1) メジャー契約(40人枠)に入っている選手
(2) メジャー契約はしていないがその球団とマイナー契約している選手
(3) キャンプ招待選手

(1)のメジャー契約している選手は、正選手ということができるが、MLBの公式戦でプレーできる選手は26人(今年から1人増えた)だ。これをアクティブロースターというが、このアクティブロースターをめぐって40人枠の選手は競争をすることになる。
(2)の傘下のマイナー契約選手は20代前半の若手選手だ。彼らは「お試し」でメジャーのキャンプに呼ばれている。大部分が数日でマイナーキャンプ行きを命じられる。しかし彼らは、原則としてマイナー選手としてチームにとどまることができる。
(3)のキャンプ招待選手、いわゆるNRI(Non-Roster Invitees)は、前年までにMLB球団をFAになって所属先が決まっていない選手が、キャンプに参加するというものだ。身分的にはマイナー契約となる。ベテラン選手が中心。MLBでは、一時はレギュラーで活躍した選手や、オールスターに出場した選手でも実力が落ちればNRIになる。

今年のキャンプでは、イチローの元同僚で、マリナーズのエースとして長く君臨したフェリックス・ヘルナンデスが、アトランタ・ブレーブスのNRIとなり話題を呼んでいる。
彼らはユニフォームを支給され、背番号も与えられるが、球団が「不要」と判断すれば翌日にはその名前が消える。
NRIからメジャー契約を勝ち取るのは多くて10%とされる。ほとんどはアクティブロースターに名前が載ることなく消えていくのだ。
日本人選手でもNRIになった選手は多い。川崎宗則はイチローを慕って2012年にマリナーズとマイナー契約。NRIでキャンプに参加してメジャー契約を勝ち取った。以後、毎年いろいろな球団とマイナー契約を結び、そこからメジャー契約を勝ち取っている。明るいキャラクターと内野のユーティリティとしての使い勝手の良さで指揮官の目に留まり、MLBの試合に出続けていた。

MLBのキャンプは練習の期間は非常に短く、すぐに試合が始まる。選手はいつでも試合でプレーできるコンディションでキャンプに参加している。
フロリダ、アリゾナに各15球団が集結しているが、フロリダはグレープフルーツリーグ、アリゾナはカクタスリーグというオープン戦が組まれる。
このオープン戦では勝敗は一切度外視される。キャンプに参加している選手をふるいにかけるのが目的だからだ。このために多くの試合が組まれる。中にはチームを2つに分けて1日に並行して2試合を行うこともある。対戦相手もMLB球団だけではなく、大学野球のチームなどと対戦することもある。
こうした試合が終わると、不要と判断された選手の名前がメンバーから消えていくのだ。
中にはスプリングトレーニング中に他球団から移籍してくる選手もいる。毎日のように顔触れが変わる。

カブスのダルビッシュ有、ヤンキースの田中将大、ドジャースの前田健太、エンゼルスの大谷翔平は、すでにアクティブロースターに名前が載っている。身分的には安泰だ。また今季からMLBに移籍したレイズの筒香嘉智、ブルージェイズの山口俊、レッズの秋山翔吾もメジャー契約であり、故障しない限りアクティブロースターに掲載される。
ただ、昨年でダイヤモンドバックスをFAになった平野佳寿は、まだ球団が決まっていない。マリナーズと契約間近との報道があるが、最悪の場合NRIになる可能性もある。
また、2013年にヤンキースにドラフト2巡目で入団した日米二重国籍の加藤豪将は、昨年AAAで好成績を残したものの、あと一歩でMLBに昇格ならず。オフにFAとなって、マーリンズのNRIとしてメジャー昇格に挑むことになった。

NPBからMLBに挑戦する選手も、順調に成績を残せばメジャー契約を継続でき、アクティブロースターに名前が載ったままキャンプインすることができるが、期待に応えられないとマイナー契約になり、NRIとして厳しい春を迎えることになる。

5月になると、アメリカでは独立リーグが開幕する。
スプリングトレーニングにNRIで参加したもののアクティブロースターに載り損ね、MLB球団とマイナー契約もできなかった選手たちは、独立リーグの球団と契約して新たなシーズンを迎えることとなるのだ。
彼らはここで活躍して、再びメジャー契約を勝ち取ろうと奮闘することになる。

こうしてみると日米のプロ野球は、環境も選手のステイタスも全く異なることがわかる。
一度安定した身分を手に入れればしばらくは安泰のNPBと、競争によって毎年身分が変わりかねないMLB、それは日米の社会のあり様の縮図でもあるのだ。

文:広尾 晃(ひろおこう)
1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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最終更新:2/3(月) 11:47
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