大学入試改革の二本柱である、英語の民間試験導入と、国語・数学の記述式問題導入が延期されることとなった。改革を推進してきた鈴木寛・元文部科学副大臣と、それに反対してきた南風原朝和・東京大学名誉教授に、今井むつみ・慶應義塾大学教授が見解を聞いた。
ここでは鈴木寛氏へのインタビュー記事の一部を抜粋してお伝えする。
(前略)
●共通試験に記述問題が必要なわけ
今井:共通試験を変更することによって高校の学びの方向を変えるという方法は、本来の教育行政のあり方を逸脱していませんか。高校の学びを変えたいのなら、ヨーロッパ諸国のように、高校卒業資格試験を実施するべきではないでしょうか。
鈴木:例えば、学習指導要領には「言語は知的活動(論理や思考)の基盤であるとともに、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもあります。言語に関する能力を高めることは、豊かな心を育む上でも重要な意義をもっています」と書いてあります。一方で、SNSの登場・普及によって、若者の文章が単語の羅列になり、単語が絵文字になっていくような状態が起きています。現在の高校生や大学生の多くは文章が書けなくなり、コミュニケーション能力も落ちている。この現象が、中学生までおりてきていて、2018年のOECDのPISAでは、一旦、復活していた読解力が急速に低下しました(2012年4位から、2018年15位)。その原因は、自由記述の問題を苦手としていることです。私はゼミの学生と話をするために頻繁にSNSを使いますが、私たち大人の世界と、高校生や大学生たちの間のコミュニケーションとのすさまじい差を感じます。年ごとに劣化している。これを放っておくと思考力も後退していくでしょう。
学習指導要領に言語活動の充実をいくら書いても、それだけではこの劣化は止められません。この目的を達成するために、あらゆる政策を駆使するのは国の責務です。確かに、入試改革によって高校生の学びの方向づけをするのは邪道かもしれない。しかし、すでに現行入試が、時代遅れの方向に向いてしまっている。入試に触れずして、実効ある改革ができる対案があるなら教えてほしいものです。
今井:受験生全員が受ける共通試験に記述式問題を課すのではなく、個々の大学が二次試験で行えばいいという意見はどう思いますか。
鈴木:これまで小論文などの記述式試験を重視してきたのは、旧七帝大や慶應大学などです。地方の国立大学の多くはセンター試験を重視してきました。私たちは五年前からこの現状について議論を始め、三つのことが動きました。一つは、国立大学協会が、地方を含むすべての国立大学の個別入試で記述式導入を決めたことです。地方の公立高校は、地方の国公立大学の入試動向を注視し、また自校の国公立合格者数を気にしているので、これによって大きな変化がもたらされます。
二つ目は、私立大学への記述式問題の導入。具体的には、早稲田大学の政治経済学部が、2021年度より、独自試験として「日英両言語による長文を読み解いたうえで解答する形式とし、記述解答を含むこと」と「数学の必修化」を決めてくれました。都市圏の受験生は私立文系志望が非常に多い。私学の雄である早稲田大学の入試が変わることで、予備校での学びを含めて私学志望の学生の勉強が変わります。これも非常に大きな影響を与えます。この二つが進むので、15万人くらいの学びが変わると期待しています。実は、私もこれでいいのかなと思った時期もありましたが、文部科学省の若手から、残りの高校生は見棄てていいのですかと怒られて、100%改心し、共通テストに記述式問題を入れることを全面的にサポートし始めました。
確かに、中堅・小規模の私立大学では独自に記述式の作問や採点態勢が組めません。共通テストに記述式の問題を入れなければ、浪人を含めて約55万人の受験生のうち、40万人は、引き続き、検索すればわかる知識の習得のために青春を費やし続けることになります。しかし、二つの変化によって学びが変わる15万人だけではなく、残りの40万人もAIに取って代わられることなく職にありつけるようにしなければならない。そのために共通テストを変え、現場を応援していこうということになりました。これが三つ目です。大学進学者は50万人ですが、50万人の通う高校の授業が変われば、就職する高校生の学びも変わり得ると考えました。
最終更新:1/28(火) 7:06
中央公論


















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