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東方神起ユンホも共感 『あやうく一生懸命生きるところだった』が描く、韓国のオルタナティブな一面

1/28(火) 8:01配信

リアルサウンド

 『82年生まれ、キム・ジヨン』や『私たちには言葉が必要だ』などをはじめとして、次々と日本で韓国の文学やエッセイなどが出版されている。これらの本は、主に女性の生き方に関するものが多かったが、1月に翻訳された『あやうく一生懸命生きるところだった』は、男性の著者が書いた本である。

 表紙には、魂が抜けたようにパンツ一丁で横たわる男性、その背中の上には猫、そして男性の周りには一杯のコーヒー(と思われる)の入ったマグカップと鉢植え、ビールに酒のあてであろうイカが置いてある、なんとも脱力感のあるイラストがこの本を象徴していて面白い。

 著者はイラストレーター。三浪をして韓国の難関美大の弘益大学(通称ホンデ)に合格するも、その後は「1ウォンでも多く稼ぎたい」と会社勤めとイラストレーターのダブルワークに奔走していた。

 しかし、ある日突然、韓国の熾烈な競争社会に対して考えてみて、ふと立ち止まり、「これ以上、負けたくないから、一生懸命をやめよう」と心に決めたことから、この本がスタートする。

 私が韓国の映画やアイドルを見てきて思うのは、「一生懸命をやめよう」ということに関しては、多分日本のほうが進んでいるのではないかということだ。それは裏を返せば、韓国のほうが「一生懸命」だということだ。

 例えばそれは誇張されているとはいえ、映画『パラサイト』を見たって感じられることだろう。ソン・ガンホ演じる父親とその家族は、脱力した空気感を醸し出してはいるが、それでも生きるために必死でもある(もちろんそれはそうでないと生きられないことなのだが)。そして、最後まで必死であることをあきらめきれないところに、韓国社会(だけではないはずだ)の問題点が描かれていると感じた。

 それに対して、韓国では恋愛・結婚・出産を放棄する若者を指す「三放世代」という言葉が2011年ころに生まれ、その後はその数が五、七と増えていき、「N放世代」と言われるようになった。こちらも、過酷な社会状況を受けて、そうとしか生きられないからこそ生まれた言葉なのかもしれないが、本書はそんな「N放世代」の気分を、ポジティブに表したものと考えていいだろう。

 この本は、東方神起のユンホが読んだと言われているが、ただ「読んだ」という事実以上に象徴的なことのように思えた。韓国のアイドルというものは、「一生懸命」なんて言葉で簡単に語れないほどに「一生懸命」を子どもの頃から続けて、やっとそのひと握りだけが達することのできる境地であり、ユンホはその中でも代表格のような人である。

 また、これはこの本の中に書かれているわけではないが、ユンホが子どものころ、1997年のIMF危機により父親の仕事がままならず苦労したということは、各所でユンホ自身が語っていることである(ちなみにユンホは1986年生まれだ)。

 そんな風に懸命すぎるくらいに生きた人たちが、その上でたどり着いた、というか見つけた「オルタナティブな生き方」が、「一生懸命に生きないということについてふと考えてみた」ということなのだと考えて読むと、この本がより一層、興味深く感じられるだろう。

 さきほど、私は「一生懸命をやめよう」ということに関しては日本のほうが進んでいると書いたが、この本にも村上春樹の『風の歌を聴け』や、ドラマとして有名な原作・久住昌之、作画・谷口ジローの『孤独のグルメ』や、是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』など日本の映画や小説などの作品名が度々出てくる。

 特に『孤独のグルメ』については、韓国で大人気で、2018年に韓国のソウルドラマアワードで最も人気のある海外ドラマに選ばれている。実際、韓国の知人から、「日本にはひとりでご飯が食べられるところがあってうらやましい」と言われたことがあるし、韓国のアイドルや俳優が10年くらい前から、食券を買って食べるチェーン店や、一蘭のように仕切られてひとりで食べるシステムが面白いと言っていると聞いたことがある。そんな人たちが『孤独のグルメ』の韓国人気を支えている面もあるのだろう。韓国でスタバやカフェが一気に広まったり、昼のランチよりも高い値段でもカフェでコーヒーを飲みたいというのも、こうしたひとりの時間が過ごせるということが大きいとも聞いたことがある。

 こうした韓国にある、もう一つの空気が知れるのが、この本の特徴でもある。韓国の映画や昨今の本では、韓国のシビアな面がフィーチャーされがちだが、この『あやうく一生懸命生きるところだった』では、韓国のオルタナティブな一面が垣間見える。そして、それは日本の文化を外から見ることにつながったりもしているのだ。

西森路代

最終更新:1/28(火) 8:01
リアルサウンド

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