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認知症の父の絶叫「俺が死ぬのを待っているのか!」に母は…

2/1(土) 5:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

多くの中高年が直面する「親の介護」問題。老人ホームへの入居に抵抗を持つ人も多く、「親の面倒は子どもが見るべき」と親族一同考えがちだ。しかし、フリーライターの吉田潮氏は、著書『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)にて、「私は在宅介護をしません。一切いたしません」と断言する。親孝行か、自己犠牲か。本連載では、吉田氏の介護録を追い、親の介護とどう向き合っていくべきか、語っていく。

「家に帰りたい」「こんなところにいたくない」

◆父、持っている!

さて、父がショートステイに入っている間、とりあえずエントリーしてもらった特養はどうなったか。事前に母と見学したが、とにかくきれい。入所者がまだいないから当然だ。担当者はこのうえなく明るい人だった。そこは救いだった。重苦しい人だったら、逆に不安になるし。

さらに、ひとり入居予定者が入院することになり、ユニットの個室に1部屋空きが出るかもしれないことが判明した。もちろん、金額は上がる。多床室の場合は月額14~15万、ユニット個室の場合は17~18万。ただし、そう簡単に値上がりすることはない。低め安定だ。有料老人ホームの高額かつ右肩上がりの料金体系を知った後で、やはり特養は魅力的だった。入れるものなら入りたい。

ずっと父を担当してくれていたケアマネさん、ショートステイしている特養のケアマネさん、そして新しくできる特養の施設長の尽力のおかげで、父は無事に「要介護4」となった。またしても2階級特進。つまり、特養に入る条件を満たし、晴れて新設の特養に入れることになったのだ。サッカーの本田圭佑や野球のイチローじゃないけれど、「まあちゃん、持ってるな!」と思った。幸運としか思えない。

今思えば、ケアマネさんに恵まれていたなぁと思う。ケアマネさんが近隣の施設の状況を詳しく知り、情報ツウでなければ、こうはならなかったのではないか。新設特養の入居者募集の情報も、評判の悪い施設情報も、入手できるかどうかはケアマネさんの腕次第。利用者の性質や家族の状況を把握し、各施設の人と情報を共有し、適材適所で介護体制を整えてくれる。感謝してもしきれない。

そんなこんなで怒涛(どとう)の如く動いている間にも、母はほぼ毎日ショートステイ先の父のもとを訪れていた。徒歩10分の場所にあったので、母も多少は楽だったと思う。ただし、わけのわからないところに放り込まれた父は、最初は病院だと思っていたようだ。様子がだんだんとわかってきた3週目くらいから、母に愚痴(ぐち)り始めた。愛嬌のある言葉で寂しさを訴える父。母に甘えているのがよくわかる。

母は毎日訪問し、甘いものを差し入れしたり、施設内の平行棒があるところで歩くリハビリをさせたりしていた。夕方に帰ろうとすると、父は「早く逃げ帰るのね」「ほったらかされるのね」とつぶやく。「明日また来るね」と声をかけて帰っても、翌日には開口一番、「昨日はなんで黙って帰ったんだ? 気づいたらいなかった!」と怒っているという。

その程度ならまだいいのだが、時には「家に帰りたい」「こんなところにいたくない」と切実に訴えたり、「俺が死ぬのを待っているのか!」「お前が楽をしたいだけだ!」と母を詰(なじ)ることもあった。怒鳴りつけることもあったという。この父の言葉の連打は、じわじわと母を苦しめていた。

新設の特養入所まではまだ1か月弱あった。その間、ずっとショートステイを継続するつもりだった。ところが、母がある決断を告げた。

「入所までの間、しばらく家にいさせてあげたい」

母は突如独り暮らしになり、猛烈に寂しくなったこともあるのだろう。ただ、ショートステイ先で父が「家に帰りたい」とぼやき続けたのが堪(こた)えたようだ。娘には決して見せない、父の負の感情はすべて母にぶつけられた。母が罪悪感を募らせた結果、入所までの16日間、父は自宅で過ごすことになったのだ。

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最終更新:2/1(土) 5:00
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