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大阪市が条例初、ヘイトスピーチ者の氏名公表もネット発信者特定には法の壁

2/10(月) 9:44配信

週刊金曜日

 大阪市は「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」(2016年1月15日制定、同18日公布・一部施行)に基いてヘイトスピーチと認定した2件について、昨19年12月27日に氏名などを公表し、ホームページに掲載している。同様の条例を定める自治体の中で、氏名公表に踏み切ったのは全国初。だが圧倒的多数を占めるネット上のヘイトスピーチ発信者の氏名特定には「通信の秘密」など法の壁が立ちはだかる。

 大阪市のホームページによると、氏名公表者の一人は「栗田香(保守速報 サイト運営者)」。保守速報はネットの電子掲示板に投稿された「朝鮮人撲滅」「気にいらないなら日本から出て行けよ」などの表現を編集した「まとめ記事」などをネットに掲載した。もう一人は「川東大了(朝鮮人のいない日本を目指す会)」。16年9月の大阪市内での街宣活動で「朝鮮人を見れば変態と思え」「朝鮮人は犯罪民族」などの発言を繰り返し、録音した音声ファイルを説明文とともにネットに掲載していた。

 市は市民団体から申し出のあったこの2件について、条例に基づき昨年7月に同市ヘイトスピーチ審査会答申を経てヘイトスピーチと認定。同11月に氏名公表の答申を受け当事者の意見を聴いたうえで公表した。2人の氏名は出版物や本人が実名で発信していたことなどから特定することができた。

【大阪市は法改正での対応要望 しかし政府はやる気なし】

 4年前に制定・施行された大阪市の前記条例は、ヘイトスピーチと認定すれば氏名や表現内容を公表することによってヘイト行為の抑止効果を狙っている。同様の条例を持つ自治体では、東京都が昨年10月に街宣活動とデモ行進についてヘイトスピーチと初認定。全国初の罰則規定を設けた神奈川県川崎市の条例も氏名を公表できるが、ネット上のヘイトスピーチは除外している。

 大阪市人権企画課によると、市民からの申し出など条例の審査対象となった案件は条例全面施行の16年7月から19年12月までに計52件。このうちヘイトスピーチと認定したのは今回の2件を含め計8件。これまでの6件はいずれもネット上のヘイトスピーチで動画掲載4件、まとめ記事2件だった。6件とも市の要請でサイト運営会社などによって削除されたが、発信者の氏名は提供されずハンドルネームだけの公表にとどまった。

 運営会社が氏名など発信者情報の提供を断ったのは電気通信事業法に「通信の秘密は、侵してはならない」と定められ、プロバイダ責任制限法で発信者情報の開示を請求できるのは権利を侵害された当事者に限られているからだ。このため大阪市は条例改正など市が取りうる方策を同市ヘイトスピーチ審査会に諮問。同審査会は18年1月、発信者名の取得は通信の秘密やプライバシーの保護、匿名による表現の自由の観点から現行法の下での自治体の取り組みとしては限界があるとし、法改正などを国に働きかけることを提案した。

 大阪市は18年3月、ネット上のヘイトスピーチの対応について法務省などに要望書を提出した。それによると、自治体がヘイトスピーチ被害者を支援するためにプロバイダなどから自治体への発信者情報の提供を義務づけ、発信者に対するプロバイダの責任を免除するよう電気事業法に特例を設けること、また自治体がヘイトスピーチと認定した発信内容の削除を促進するため、プロバイダなどが削除したことの責任を免除する措置を講じるよう求めている。

 大阪市人権企画課によると、市の要望書に対する国の回答はまだないという。19年3月に法務省が地方法務局に出したネット上の「差別的言動の処理」についての通知は、ヘイトスピーチ解消法の不当な差別的言動に該当すると認められたものについてはプロバイダなどに対し「その旨の情報提供を行い、約款に基づく削除等の対応の検討を促すことが望ましい」としている。何という手ぬるい処理だろうか。自治体にとって政府のやる気のない姿勢こそが大きな壁なのかもしれない。

(平野次郎・フリーライター、2020年1月24日号)

最終更新:2/10(月) 9:46
週刊金曜日

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