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新型コロナウイルスに漢方薬が有効? 中国全土である薬が完売した訳

2/12(水) 18:30配信

ニューズウィーク日本版

<怪しい情報に要注意。非科学的な伝統医学を主体とする中国医療は、ウイルス対策の妨げになりかねない>

中国全土で新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、国営の新華社通信は不安におののく国民に向けて、漢方薬が有効だという情報を流した。ウイルスに効果があるとされたのは双黄連口服液という薬で、すぐに全国の薬局で売り切れた。

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新華社の情報に説得力があったのには理由がある。上海薬物研究所と武漢ウイルス研究所の研究が、中国の医療制度の主体である伝統中国医学に基づいて、この漢方薬にお墨付きを与えたとされたためだ。

これにはすぐに批判が噴出し、他の国営メディアにはこの薬に魔法のような効果はないと警告したところもある。だがウイルスとの闘いのなかで、伝統中国医学は複雑な意味合いを持っている。

今回のウイルス禍の震源地である武漢には、既に漢方の専門医125人が派遣された。愛国的なエセ科学とでも言うべきものを後押しする姿勢を示せば、中国政府は医療制度を損ない、ウイルス危機への対応を誤る恐れがある。

双黄連の原料はスイカズラ、レンギョウなどで、伝統医学と言っても処方ができたのは1960年代。下敷きになっているのは前近代的な中国医学と、漢方医が過去数世紀の間に蓄積した薬草研究を交ぜ合わせた非科学的な理論だ。双黄連が気道疾患に効く可能性を示す研究はいくつかあるが、大規模なウイルス感染に効果があるという確かな証拠はない。

伝統中国医療は大規模なビジネスになっている。いま処方されている漢方薬は薬草の専門家などが調合したものではなく、工場で大量生産された医薬品だ。中国の漢方薬市場の規模は年間450億ドル相当に達する。

公衆衛生上の危機の際に民間療法が流行するのは、どんな国でもあることだ。だが中国で伝統医療が果たす役割には、かなりの危険がある。西洋医学と一線を画す医療を構築するという考えが生まれたのは1950年代。中華人民共和国が成立して間もなく、毛沢東の号令によって大きく発展を遂げた。

<あまりに怪しげな臨床基準>

伝統医療は中国独自の医学として体系化され、技術的にはより高度な西洋医学に対抗するものとして医療に組み込まれた。中国の医療制度のかなりの部分は、少なくとも名目上は伝統医療に託されている。全病院の約1割が伝統医学を主体とし、ほぼ全ての病院で漢方関連の治療が行われている。

伝統中国医療には不透明な部分が多く、腐敗につながる恐れもある。武漢のある湖北省では、重体の妻の1日当たりの入院治療費として、伝統医療の病院から月収の何倍もの金額を請求された男性がいる。

伝統的な漢方薬には、臨床的に効果が証明された薬もたくさんある。ただし伝統医療の臨床基準には怪しげな部分が多く、データが偽造されたり、薬理効果のない薬が出回ることも珍しくない。

米学術誌に掲載された98年の研究論文によれば、中国で発表された伝統医療関連の論文のうち99%がこの医療に肯定的な結論を導き出している。常識的にあり得ない数字で、不正の可能性を感じさせる。

さらにイギリスの研究所の調査によれば、漢方薬の30~35%には西洋医療の薬物が含まれており、安全と言えない量であることも少なくない。いま伝統中国医療は、ナショナリズムを強調する習近平(シー・チンピン)国家主席の下で再び活気を帯びている。習は公の場で伝統医療を「中国文化の宝」と繰り返し称賛している。

WHO(世界保健機関)などの国際的な専門機関に伝統医療を承認させる動きも活発で、資金も投入されている。病院で治療を受ける余裕がなく、隔離を恐れる中国人にとっては、漢方の家庭薬が唯一の選択肢なのかもしれない。しかしウイルスとの闘いでは、効果が疑わしい薬草と根拠の乏しい理論は妨げになるだけだ。

From Foreign Policy Magazine

<2020年2月18日号掲載>

ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

最終更新:2/12(水) 19:58
ニューズウィーク日本版

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