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ゴルフ界「総本山」が出した飛距離偏重「否定レポート」の波紋

2/12(水) 15:00配信

新潮社 フォーサイト

 世界のゴルフをつかさどる「USGA」(全米ゴルフ協会)と「R&A」(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)が2月4日、『ディスタンス・インサイト・レポート』を発表。世界中のゴルフ界で大きな話題になっている。

 直訳すれば、「距離に関する洞察の報告」。

 いわば、飛距離偏重でパワーゲーム化している現在のゴルフ界をどう見るか、今後どうしていくべきかをUSGAとR&Aが洞察した報告書である。

 全114ページにおよぶ分厚いレポートは、「ゴルフ界を正しい方向へ変えていかなければならない」と世界のゴルフ界に警鐘を鳴らしている。

 言い換えれば、現在のゴルフ界は望ましくない方向を向いているという意味だ。

「とは言え、今のこの現状が緊急事態や危機というわけではないし、一夜にしてそうなったというわけでもない」

 そう語ったUSGAのマイク・デービスCEO(最高経営責任者)は、用具メーカー、ゴルフコース、プロゴルファー。ゴルフに関わるすべての人、モノ、企業や団体に「みんなでゴルフの在り方を見つめ直してほしい」と呼びかけている。


■「飛距離偏重」「パワーゲーム化」「高額化」

 ドライバーヘッドがパーシモン(柿の木)からメタルへと変わっていった1990年代後半以降、ゴルフ用具メーカーは「飛ぶクラブ」「飛ぶボール」の開発競争にしのぎを削り、プロもアマも「飛ばすこと」を求めるようになった。

 実際、ゴルファーの飛距離は目に見えて伸び始め、タイガー・ウッズ(44)を筆頭とするトッププロたちは競ってビッグドライブを放つようになっていった。

 飛距離の伸びが顕著になったのは、2000年代に入ったころからだった。

 米PGAツアーの選手たちの平均飛距離は2002年が279.5ヤードだったが、2010年には287.3ヤードへ、昨年は293.9ヤードへ伸びた。300ヤード超のロングドライブを軽々と放つ飛ばし屋も次々に登場し、飛ぶ選手が人々の憧れの的になり、スターと化していった。

 そんなロングヒッターへの対応策として、世界中のゴルフコースが次々に伸長されていった。米国のゴルフコース全長の平均は、1990年代は6600~6700ヤードだったが、2010年には6700~6800ヤードと100ヤードも伸びた。今では7400ヤードを超えるコースが多々見られ、7500ヤード超も建設されようとしている。

 毎年4月に開催されるゴルフの祭典「マスターズ」の舞台「オーガスタ・ナショナルGC」が大幅改造されたのは、2002年のこと。全長がほぼ300ヤードも伸ばされたその大改造は、当時の最大のロングヒッターだった「ウッズへの対策」と見なされていた。

 USGAも「全米オープン」の舞台となるコースに「史上最長」のセッティングを毎年のように施し、通常のパー5を大会ではパー4として使用したり、600ヤードを超えるパー5が当たり前のように設置されるようになった。

 米PGAツアーのコースも、年々、著しく伸長されている。

 アマチュアゴルファーがプレーする巷のコースも「長い=難しい=いいコース」とみなされるようになり、あちらこちらでコース伸長工事が競って行われた。工事費がかさんだコースのプレーフィーが吊り上げられていったことは、言うまでもない。

 そうやって、この20年超、世界のゴルフ界は「飛距離偏重」「パワーゲーム化」、そして「高額化」してきた。


■「遅すぎることは決してない」

 近年、世界的にゴルフ人気が低迷し、ゴルフ人口の減少も著しいと言われている。それは世界のゴルフ界が直面している深刻な問題であり、その原因こそが「飛距離偏重」「パワーゲーム化」、そして「高額化」なのだと今回のレポートは指摘している。

「ゴルフコースを伸長し続けることは、ゴルフというゲームにとって有害でしかない」

 と、前述のデービスCEOは今回初めて言い切った。

 コースを長くするためには、より広い土地が必要となり、芝や池、水、砂、化学肥料など、より多くのモノを使用することになる。地球環境の保護に逆行するそうした動きは、ゴルフの未来を阻害こそすれ、ゴルフの成長と拡大にはつながらないと述べている。

 コースを伸長するのではなく、ある一定の限られた長さと広さの中で、飛距離ではなく正確性やワザを競い合うのが本来のゴルフの姿であるべき。そういうゴルフに立ち戻すためには、ゴルフ用具、とりわけプロゴルファーの用具に制限をかけることも検討していく。

 そうすることで、これまで正確性やワザを犠牲にしてでも飛距離を求めてきたプロゴルファーたちも、ゴルフというゲームの真髄を追求していくことになるはずだ、とレポートは切々と訴えている。

 さらに、ゴルフ界が辿ってきたパワーゲーム化という流れの中で、これまでアマチュアゴルファーは自身の飛距離以上の「長すぎるコース」をプレーさせられてきており、そのせいでアマチュアゴルファーの時間や労力、エネルギーを消耗させられている。だからプレーの進行が遅くなり、ゴルフは時間がかかるスポーツとして敬遠されるようになったとも記されている。

 そうしたゴルフ離れの現状から脱し、ゴルフファンを増やすためには、ゴルフコースの伸長に歯止めをかけ、ゴルフ用具とゴルファーの飛距離偏重をあらためるべきだ、という結論を導き出しているのだ。

 言うなれば、ゴルフコースの「距離」とゴルファーが打ち放つ「飛距離」をダウンサイズすることで、ゴルフをダイナミックなスポーツからコンパクトながら味わいがあるゲーム、熟練の技を競うスポーツへ変えていく作戦。そのダウンサイズが、逆にゴルフの成長と拡大につながるという考え方なのだろう。

 USGAとR&Aは、今後1年以上をかけて、さらなる調査や研究、検討を重ね、世界のゴルフが「正しい方向」へ進んでいくための具体的な施策を打ち出していくという。

「遅すぎることは決してない」

 デービスCEOは、断固とした口調で明言した。


■「過去ではなく未来だ」

 同レポートに対するゴルフ界の反応はさまざまだ。

 米PGAツアーは、

「我々のツアーはもとより、プレーヤーや大勢のファンにネガティブなインパクトを与えることなく、USGAやR&Aと協力して未来の解決策を探っていきたい」

 という声明を出した。

 だが、翌日には、

「このツアーの選手たちは、今だって、飛ばすだけではなく、優れたワザも持っている」

 というツアー関係者の声も聞こえてきた。そこには、米ツアーが同レポートの内容すべてに賛同しているわけではないことが垣間見える。

 ただし、米LPGAは、

「エリート女子プロたちのハイレベルな世界においては、距離に関する問題は特段、見当たらない」

 と、男子プロの世界とはやや違った反応で、

「だが、レクリエーション・ゴルファーの世界においては、距離を求めることで、より難しくなる、費用や値段がより高くなるといった問題があることをレポートのデータが示している。その解決に向けて協力していきたい」

 という姿勢だ。

 米誌『ゴルフウィーク』が一般ゴルファーを対象に、レポートが公表された直後にSNS上で即座に行ったアンケート調査によれば、現在のゴルフにおいて「距離」に何かしら問題があると感じている人々の割合は、全体の70%。しかし、そのうちの52%は「プロの世界でのみ問題」と答えており、そうした一般ゴルファーの感じ方と米LPGAの姿勢が正反対であるところが興味深い。

 一方、帝王ジャック・ニクラス(80)は、

「長い間、待ち望んでいた報告だ。最高レベルからレクリエーション・ゴルファーまで、全ゴルファーにとってベストな未来を探るための道標が示された。私もサポートしていきたい」

 と同レポートを高く評価している。

 しかし、フィル・ミケルソン(49)は大いに不満顔だ。

「ジムで体を鍛え、飛距離を伸ばし、その成果として、試合でかっ飛ばす。そういう努力を積んできた選手に対して、このレポートは『歩んできた道を逆戻りしろ』と言っているようなものだ。アスリートがせっかく頑張って得たものを逆に否定されるというのは受け入れがたいし、残念だ。絶対に嫌だ」

 米メディアの中にも同様に、

「まるでパーシモン時代へ戻れということなのか?」

 という批判的な論調が少なくない。

 だが、デービスCEOは、

「いやいや、そういうことではない。視線を向けるべきは過去ではなく未来だ。みんなで前を見つめ、ゴルフを正しい方向へ向けようとしているのだ」

 と、批判に真っ向から反論。まさに侃々諤々の状態だ。

 果たして、ゴルフ界に新しい未来は訪れるのか。ゴルフというゲームは再び変わるのか。

 大きな節目にさしかかっている。

舩越園子

最終更新:2/12(水) 15:00
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