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眼から鱗! 一流の文学者による一流の政治批評

2/13(木) 7:00配信

Book Bang

 木原善彦は米文学の研究者にして、読みにくいのに面白い小説を数多く訳してる翻訳者。そういう人からレトリックがテーマの『アイロニーはなぜ伝わるのか?』がなぜ出てくるのか? 3章立ての第2章を読み終えてもなお、答えの見当はつきませんでした。

 ようやく眼から鱗が落ちたのは、第3章でこんな一文に出くわしたとき。「近年、民主主義政体を持つ多くの先進国で、皮肉なことになぜか、独裁的な人物が権力を握ったり、民主的な投票の結果、どう考えても不合理で愚かとしか思えない選択がなされたり、という事象が目立ち始めています」。実はこの本、優れた文芸の書であると同時に、優れて政治的な書でもあった。

 アイロニーとは期待と現実の落差に生まれる修辞だと納得させられるのが文芸パートなら、期待と現実に落差のある状況もまたアイロニーだと気付かされるのが政治パート。もちろん、これはワタシの勝手な切り分けであって、著者があからさまに政治に触れる箇所はごく少なく、また、子ブッシュやオバマは登場させても現職大統領の名は挙げないし、アメリカの話はしてもニッポンには触れない。

 が、そういうテクニックによって焦点が絞られる先はトランプであり安倍であり。一流の文学者による一流の政治批評というジョージ・オーウェル的な色彩まで孕む修辞読本が生まれたのは、かの偉大なる指導者たちとその賢明なる支持者たちがあってこそ。彼らへの感謝の涙は尽きません。

[レビュアー]林操(コラムニスト)

新潮社 週刊新潮 2020年2月6日号 掲載

新潮社

最終更新:2/13(木) 7:00
Book Bang

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