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ハイネケンが広告にビールではなくカクテルを使った深い理由

2/14(金) 16:30配信

Forbes JAPAN

オランダのビールブランド「ハイネケン」の広告動画が話題だ。「cheers to all(みんなに乾杯)」という名の動画は、バーでお酒を注文した男女それぞれの飲み物が間違って届けられるシーンから始まる。

カクテルを頼んだ男性のところにビールが、ビールを頼んだはずの女性にはカクテルが渡される。こんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。

性別によって好みの飲み物は変わらない。しかし、頭のどこかで「ビールは男性が飲むもの」、「カクテルは女性が飲むもの」といった固定概念ができてしまっているケースがある。その結果ウェイターやウェイトレスが渡す人を間違えてしまう、という動画だ。

最後のシーンは、「男性もカクテルを飲む」というメッセージで締めくくられる。ハイネケンというビールの会社が、自社のビールを売り込むような直接的な宣伝ではなく、「カクテル」について言及することで、性別による偏見や思い込みに対して誠実に向き合っている姿勢を見せることに成功している。

一方で、裏を返せば「女性もビールを飲む」というメッセージであるとも言える。しかしこのように締めくくられたら、自社のビールをより多くの人に飲んでもらいたいだけでしょ?という反応だったかもしれない。

「カクテルは女性だけのものではない。つまり誰でも好きな飲み物を飲んでもいい」と視聴者に想像力を働かせる秀逸なメッセージの作り方が多くの人の心を掴み、この動画が多くの人に見られているのだろうと考察する。

過去には、失敗も?

多様性に力を入れてきたハイネケン

ハイネケンが広告を通じて「多様性」の重要性を訴えたのは初めてのことではない。

2017年に配信された動画では、正反対の思想を持ったふたりに共同作業をしてもらい、その後、お互いの思想がはっきりとわかる動画を見る。その後退室するか、ビールを片手に語り合うかという選択肢が与えられる。

フェミニストと反フェミニスト、環境活動家と温暖化懐疑論者、トランスジェンダーと彼らを嫌悪するトランスフォビアといった正反対の2人。しかし、その場に残って一緒にビールを飲むことを決めた2人は、不思議なことに次第に打ち解け合うようになる。

分断が起きやすい思想の違いを持っていたとしても、共同作業をしたり、ビールを飲んだりしながら、相手の人間性を知ることができれば、お互いを理解しようとする気持ちが上回るのだ。視聴者に希望を与えるような動画は、思想の多様性を認め合う事例として多くの人に見られた。

過去には、失敗した例も

ハイネケンは常に消費者の心を掴んできたわけではない。「ハイネケン・ライト」の商品を広める広告動画を配信した際に、人種差別と捉えられるような表現があり、炎上を経験している。2018年に配信されたこの動画では、バーテンダーが滑らせたボトルが黒人女性をすぎて最終的に肌の白い女性の元に届き、画面上には、「時には、ライトな方がいい」というキャッチコピーが現れる。

ヒップホップアーティスト、チャンス・ザ・ラッパーが動画に対して「とんでもなく人種差別的だ」というツイート。あっという間に火が付き、批判が殺到した。動画はテレビとユーチューブの配信が中止された。

このように、企業がメッセージを発信する際は細心の注意が必要だ。少しでも文脈を間違えれば、もともとのファンだけではなく多くの人にネガティブなイメージを植え付ける大事故になり得る。一方で、社会に潜む課題に真摯に向き合う姿勢をクリエイティブに見せることで、一気に好感度を上げることもできる。

そのためには消費者のニーズを汲み取るだけではなく、社会が抱える様々な課題を把握することも求められる。ハイネケンの成功事例、そして失敗事例から学べることはたくさんありそうだ。

井土 亜梨沙

最終更新:2/14(金) 16:30
Forbes JAPAN

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