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80代女性の孤独死、築50年のアパートに設置された“新品同様”エアコンが物語ること

2/16(日) 21:00配信

週刊女性PRIME

エアコンの温度が初期設定のまま

 上東さんは熱気と腐臭の中、黙々と部屋の片づけをしていく。なぜだか、この古びた部屋とちぐはぐな最新型のエアコンに目が行った。

「設定温度は25度だったから、取りつけた当時の初期設定のままだったはずだよ」

 と上東さんは語る。

 2018年の夏は、すさまじい暑さだった。女性は生活保護を受給していた。その一環で行政関係者に相談し、エアコンを取りつけたらしい。しかし、電気代は自腹なので、エアコンはほとんど使っていないようだった。女性のように、エアコンがあっても、電気代を気にして使用していなかったという孤独死者は多い。高齢になると暑さ・寒さを感じる能力が低下するという。少しぐらい暑くても我慢しようとする心理が、命に関わることもあるのだ。

 孤独死は圧倒的に夏場に多いが、その多くがエアコンのない家か、あっても壊れているか使われていない。異常とも言える猛暑が、体力の弱い高齢者や、体力を温存できる快適な環境設備が整えられない人の命を、孤独死という形で容赦なく奪っていく。私はそれを毎年のように取材で見せつけられている。もし、エアコンを日常的に使っていたら、女性は助かったかもしれないと感じた。

 2019年の夏はそれほどの暑さではなかったものの、雨の日が多く、エアコンがない室内だと、ジメジメとしてサウナのような状態だったのだろう。

 救急車が来て近所を騒がせたら申し訳ないと思い、多少、体調が悪くても遠慮して救急車を呼ぶことをためらう高齢者も多いのである。女性もそう考えたのかもしれない。だから何かあったときのために、かろうじて電話の近くに布団を敷いたのだろうと、上東さんは考えた。

家主はリスクの高い高齢者には貸したくない

 上東氏が、布団を片づけながら、こういった築年数の古い風呂なしアパートの住人について解説してくれた。

「この手のアパートには、おおかた二種類の人が住んでいるんだ。高齢者か外国人だね。この隣人もやはり台湾の人だった。今の高齢者のおひとりさまは、築年数が新しくて日当たりのいい部屋にはなかなか入居できない現実があるんだ。家賃の問題や保証人の問題、家主が高齢者に部屋を貸すには、不安のほうが大きくなるんだよ。家主自身も年をとっていくはずなのに、物件を貸すのはビジネスだから、住人の高齢化にだけは敏感になってしまうんだよね」

 物件を貸す側としては、部屋で死なれたら事故物件になってしまうし、改装費用も自腹となるケースもある。リスクの高い高齢者には貸したくないというわけだ。

 この女性は子どももいないため、親族といえるのは姪(めい)っ子だけだったが、すでに他界していた。

「女性は人とのコミュニケーションが苦手だったんじゃないかな。人からお節介と避けられていたということは、もしかしたら承認欲求が満たされず、自分の存在に劣等感を持っていた可能性がある。だけど、他者からの愛を感じたかったかもしれない。相手を思いやる優しさが過剰になると、それを受けた相手は疲れてしまうよね」

 孤独死する人は、生前から何らかの理由があって親族と疎遠だったケースが多い。この女性の場合も同様で、遺体を引き取る親族は誰も現れなかった。そのため、かろうじて接点のあった心優しい不動産屋の社長が引き取ることとなり、女性は荼毘(だび)に付されたという。

 女性の死はまさに、無縁社会を体現した一例である。しかし、毎日のように日本で起こっているひとつのリアルな現実でもある。

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最終更新:2/16(日) 22:09
週刊女性PRIME

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