ここから本文です

「一生懸命に頑張ること」≠「無理をすること」子どもたちの成長を阻む“過密日程”

2/17(月) 13:19配信

footballista

中野吉之伴の「育成・新スタンダード」第5回

ドイツで15年以上にわたり指導者として現場に立ち続け、帰国時には日本各地で講演会やクリニックを精力的に開催しその知見を還元。ドイツと日本、それぞれの育成現場に精通する中野吉之伴さんが、育成に関する様々なテーマについて提言する。

第5回は、サッカーにおけるコンペティションの過密日程や普段のトレーニングはもちろん、日常生活に至るまで。何もサッカーに限った話ではない、日本の子どもたちの“過密スケジュール”問題を考える。

文 中野吉之伴


 日本の子どもたちのスケジュールって大丈夫だろうか?

  1月に日本に一時帰国した時に、各地でサッカークリニックや指導実践などを行ってきたが、子どもたちのスケジュールを聞くとやっぱり驚かされる。とにかく忙しい。次から次へと次の予定が入っている。毎日の学校の他に、サッカーの練習、スクールの練習や他の習い事、塾……。週間スケジュールを見せてもらったら、ほとんどが塗りつぶされているんじゃないだろうか。特に都心部では、家でゆっくりできる時間っていったいどれくらいあるんだろうと心配になってしまう。

 でも、それがおそらく一般的だということは、多くの大人は問題ないと思っている。そして子どもたちはちゃんとできているから大丈夫だと思っている。

 では、なぜそんなにスケジュールがギュウギュウなのか。大人側の主張としては「子どもたちに成長してもらいたい」と思っているからではないかと思うのだが、これは合ってるだろうか。ここがそもそも違うなら、もうどうしようもない。

成長していく選手もいる2つの理由

 成長してもらいたい。子どもたちが成長するサポートをしたい。だから可能な限りスケジュールを埋めて、成長の機会を作ってあげる――こういう思考図式になるのだろう、おそらく。

 人はどうすれば成長するのか。果たして成長メカニズムをしっかりと理解しているだろうか。

負荷(練習や勉強に取り組む)→ 疲労(パフォーマンスの低下)→休養(コンディションの回復)→向上(パフォーマンスの向上)→負荷

 大雑把に言ってこうしたサイクルが必要だ。練習などで疲れたところで十分な休養を取ることで回復し、負荷をかける前よりも全体的な能力が向上していく。理想的には1回ごとの練習に可能な限り全力で取り組み、ヘトヘトになり、でもちゃんと次の練習まで休める時間が取れること。能力の向上という点で見れば、それが一番効果が出る。

 ただ、多くの場合、休養が十分に取れていないまま、つまりコンディションが回復し切る前、パフォーマンスレベルが向上する前に新しい負荷をかけてしまうので、極端な話コンディションとパフォーマンスのレベルは下がっていく。ケガも増えるし、集中力、モチベーションもなくなっていく。加えて成長期の子どもたちには、成長に回すだけのエネルギーが必要だ。それなのに体の中に貯蔵されているエネルギーを使い切ってしまうようなスケジュールでは、回復することで精一杯になってしまう。

 走り込みをやっているチームは「そうすることで体力と気力が身につく」という。確かにそれで成長していく選手もいる。理由は2つで、一つはその選手が持つ潜在的に持つキャパシティレベルが高いので、対応することができる。選手の成長には個人差がある。中には大人顔負けの持久力を持っている子もいる。だからできているように見えるし、逆にできていない子は頑張っていないからという見方をされてしまう。

 もう一つの理由は、エネルギーを使い切らないように子どもたちが体力を温存しながらやっているから。人間は身体の構造上、100%近いパワーでプレーができる時間と頻度は限られている。だから全力で取り組んでしまうと、先に述べたように十分な、具体的に言えば24~72時間の休養時間が必要になる。でも、そんな休みの時間はない。となると、一つひとつの練習や試合ではある程度力をセーブした状態でプレーしなければならなくなる。やればやるほどうまくなったり強くなったりはしない。

 スケジュールが埋められれば埋められるほど、一つひとつのことを“こなそう”とせざるを得なくなる。でもそれは、本来願っているはずの成長と真逆の方向性ではないだろうか。普段70~80%の力で取り組んでいて、大事な試合で100%出せるだろうか? それが成長に繋がるのか?

 それに、子どもたちには目に見える予定だけが大事なのではない。家で一人でボーっとする時間、学校が終わった後で友達とふざける時間、テレビを見る時間、友達と時間を気にせず遊ぶ時間、家族で過ごすだんらんの時間、兄弟で遊ぶ時間、寝る前に部屋で本や漫画を読む時間――すべてがかけがえのない時間ではないか。そうした余白の時間をどれだけ取れているだろうか?

 スケジュール通りこなせるようになることが成長に繋がるわけではない。伸びしろのある余白の時間を大事にしながら、一つひとつのスケジュールに集中して、可能な限り100%の力で臨めるような生活サイクルを作ることが大切なのだ。子どもだけではない。頑張る時間、遊ぶ時間、休む時間。私たち大人だってそうなのだ。

 そうした過密日程というのは日常生活だけではなく、大会形式にも見られる。例えば高校選手権はどうだろう?

1/2ページ

最終更新:2/17(月) 13:19
footballista

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事

Yahoo! JAPAN 特設ページ