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密室で部屋も着衣にも乱れはなく、病死に見える遺体。監察医はなぜ窒息死だと言い切れたのか?

2/17(月) 17:00配信

文春オンライン

 小料理屋の女将が布団に寝たまま死亡していた。外部の侵入の形跡がなく病死とされたが、まぶたの裏の赤点は窒息死の可能性を示唆していた─。普段目に触れず、見逃しやすい場所にこそ、本当の死因を物語る証拠が隠されている。

【画像】死因によって大きさの異なる溢血点

◆◆◆

出血・うっ血・溢血点の違い

 首を紐(ひも)で絞めつければ、息苦しくなって顔がどす黒く暗赤紫色にうっ血する。これは、側頸部(そくけいぶ)の皮下の浅い所を通って心臓に戻る頸静脈が圧迫され、血流が止まるためだ。深い所を通って頭部に血液を送り出す頸動脈は紐の圧迫を受けにくい。それで紐から上の頸(くび)や顔の毛細血管の流れが渋滞して、暗赤紫色に見えてくるのが、顔面のうっ血である。

 このうっ血が少し長く続くと、毛細血管は腫れ上がって血管壁から血球成分である赤血球が洩れ出て小さい赤い点になる。これが溢血点(いっけつてん)である。出血点とは言わない。出血は血管が破綻した場合を言い、溢血点は血管壁の破綻はなく、血管壁から洩(も)れ出た赤血球の小さい赤い点を言う。

 窒息死のように顔に強いうっ血を生じて死亡した場合などに、眼瞼(がんけん。まぶたのこと)をひっくり返すと、眼瞼結膜に溢血点を見ることが多い。

 太い血管が破綻し出血すると、生体に大きな影響を及ぼす。血液について詳しい説明を加えると、体重の約8パーセントが血液と言われている。60キログラムの体重の人は約5リットルの血液を有している。

 動脈血(酸素と栄養に富み、鮮紅色を呈する)と静脈血(二酸化炭素、乳酸などの老廃物を含み、暗赤色である)があり、動脈血が4分の1出血すると、生命の危険を生ずる。静脈血は2分の1出血しても処置さえ良ければ救命できると言われている。

部屋も着衣も乱れはなく、病死のようだったが

 小料理屋の2階が経営者の部屋であった。60代の女将(おかみ)が一人暮らしをしていた。

 2、3日店が閉まっていたので隣家の店主が警察に届けた。女将は布団に寝たまま死亡していた。部屋も着衣も乱れはなく、病死のようであった。立会官1人と部下の刑事2人、それに鑑識係1人の計4人が同行していた。検死をすると、顔にうっ血があり、眼瞼結膜に粟粒大(ぞくりゅうだい)の溢血点が数個見られた。首に索条痕(さくじょうこん)らしき異状は見当たらないが、窒息死のようである。立会官らに言うと、「殺人事件ですか」と問い返された。「そのようだ」と言うと、「先生、ここは密室状態になっていたので、他人が出入りできない部屋だから、それはないですよ」と反対された。

「密室かどうか私は知らないが、窒息死の所見があるから、第三者の介入があったと思うのだが」と、私は遺体の顔のうっ血と眼瞼結膜の溢血点が粟粒大と大きいことを挙げ、窒息死の所見であると説明した。

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最終更新:2/18(火) 11:27
文春オンライン

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