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アメリカから帰国した私が日本の大手航空会社の新型肺炎対策に絶句した訳

2/25(火) 15:25配信

ニューズウィーク日本版

<日本の危機管理は「上司からの指示」と「マニュアル」がすべて? 大手航空会社や成田空港のコロナ対策に仰天した>

新型コロナウイルスが世界各地で猛威を振るい始めてから、10日間ほどアメリカを調査旅行した。

【動画】マスク姿のアジア人女性がNYで暴行受ける

現地では、人々の予防方法にも文化の違いが見られた。マスク着用者は皆無に近く、筆者の持参したマスクもついに日の目を見ることはなかった。

あまり整備されていない電車の中で、せき込む乗客たちが隣に立っていた際も、マスクを取り出す勇気はなかった。渡米前に、マスクを着けたアジア系の女性がアメリカ人に怒鳴られる映像がSNSで流れていたのを知っていたし、郷に入れば郷に従う精神で臨んでいたからだ。

かの地では、入院患者がマスクを着用する。マスクを着けている者は病院を勝手に抜け出した者だと見なされる、という説明を現地の知人たちから聞かされていた。マスクをしていなくても手を洗い、体温をチェックするなどアメリカ人も体調管理に力を入れている。

世界で最も清潔な国である日本がなぜ中国に次いで2番目に感染者が多いのか(編集部注:クルーズ船含む)、彼らは強い関心を寄せていた。日本の経済がアメリカ以上に中国に依存しきっていること、人的交流も多いことだけでなく、無菌状態の日本人は常に他者に対し無防備な状態にあるのも問題だ、とメディアで専門家は指摘していた。

そのアメリカでもマスクは極端に不足していた。報道によれば、アジア系移民が購入し、本国に発送しているという。

筆者は旅を終えて飛行機に乗り込んだ瞬間に驚かされた。何と、日本人たちがほぼ全員、顔をマスクで隠しているのではないか。

筆者を乗せた飛行機が成田空港に着陸する際に、日本の大手航空会社のキャビンアテンダントは機内アナウンスで以下のような趣旨を美しい英語と日本語で伝えた。「アフリカ豚コレラがアジア各国ではやっているので肉製品の持ち込みは厳禁」「一昨年からコンゴ共和国をはじめ、アフリカの一部の国々でエボラ出血熱がはやっているので、体調に異常を覚える乗客は名乗り出るように」

ここまで聞いてから、次は新型コロナウイルスに関する注意喚起かと予想していたら、機内放送はピタッと終わり、キャビンアテンダントもベルトを着用して専用の椅子に座った。

<「上からの指示」なしに動かない>

非常口を挟んで筆者と向かい合っていたので、思わず「新型コロナウイルスは予防してなくていいのか」と聞いた。「ごもっともですが、マニュアルにないので放送できません。上からそう指示されています」彼女の返事を聞いて仰天した。

というのも、直前にアジア系女性の連れた子供が嘔吐し、トイレに駆け込んでいた。その後、乗務員が防護服を着込んでそのトイレを消毒していたのを乗客は目撃し、どよめいていたからだ。敏感な時期にもかかわらず、「上からの指示がない」一点張りの大手航空会社の危機認識の低さに言葉を失った。

大手航空会社だけではない。入国手続きを終え、預けた荷物が到着するのを待っている間、税関当局の注意喚起も機内放送とほぼ同じだった。ここでも筆者は意地を張って動植物検疫カウンターで新型コロナウイルスの感染に対し、なぜ注意の放送がないのかと確かめた。返ってきた答えは同じで上司からの指示がない、だった。

以上が、日本の水際対策の実状である。「上からの指示」がない限り、現場は機械的にマニュアルに従うだけだ。筆者の持参したマスクも日本でようやく役に立った。しかし、この大手航空会社や成田空港での新型コロナウイルス対策には正直、納得できないものがある。

<本誌2020年3月3日号掲載>

楊海英(本誌コラムニスト、静岡大学教授)

最終更新:2/25(火) 17:49
ニューズウィーク日本版

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