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『鬼滅の刃』ノベライズ100万部突破で注目 JUMP j BOOKS編集長が語る、公式スピンオフにかける熱意

2/25(火) 15:10配信

リアルサウンド

 集英社JUMP j BOOKS編集部(以下j BOOKS)から刊行された『鬼滅の刃』のノベライズ版が『しあわせの花』『片羽の蝶』の2冊で累計発行部数100万部を突破した。ヒットマンガは数あれど、何十万部も売れる小説版タイトルを複数抱えているのはj BOOKSだけだ。しかも2018年に千葉佳余編集長になって以降、売上が伸び調子にあるという。千葉編集長に現在のj BOOKS好調の背景とオススメ作品を訊いた。

装丁も豪華な『岸辺露伴』シリーズ。

■j BOOKSはファンのツボを突いたスピンオフに強い

――千葉さんをご存じない読者に向けて、まずはj BOOKSでどんな作品を担当されてきたのかをお話ください。

千葉:私は少女小説のコバルト文庫、ライトノベルのスーパーダッシュ文庫、児童文庫の集英社みらい文庫を経て、2016年に副編集長としてj BOOKSに異動してきましたが、ここでは担当はほぼ持っていないんです。ただ私が中心となりまとめたものとして『岸辺露伴は叫ばない』『岸辺露伴は戯れない』という『岸辺露伴』シリーズがあります。実は私は入社時に「週刊少年ジャンプ編集部でジョジョを担当したい!」と言っていたほどの岸辺露伴大好き人間でしたので、この本を担当できたときには「自分の夢が全部達成できた……」と思うくらい嬉しかったですね。

 『ジョジョの奇妙な冒険』のノベライズには乙一先生、西尾維新先生、上遠野浩平先生、舞城王太郎先生といった著名作家さんが手がけたものがあります。でも『岸辺露伴』はほぼj BOOKSやスーパーダッシュ文庫の新人賞出身者で固めたアンソロジーなんですね。作家さんの知名度は乙一先生たちほどではありませんが、みなさんジョジョ愛が非常に深く「これは露伴が言いそう!」というセリフに満ちていて、読者の反応もすごくよかったです。

――先日、『鬼滅の刃』の小説が累計発行部数100万部突破というプレスリリースが出されましたが、それ以外で好調なタイトルをいくつか教えてください。

千葉:そもそものj BOOKSの特徴を申しますと「スピンオフに強い」んですね。たとえば『ONE PIECE』の小説版と言っても、みらい文庫では原作のお話をそのままなぞるほうが好まれますが、j BOOKSでは「小説オリジナルでエースの話を掘り下げる」といったものの方が好まれます。映画のノベライズを除くと基本的にはいずれもスピンオフです。

 そして数あるマンガ作品の中にも、小説と特に親和性がある作品があります。

 「烈伝シリーズ」というかたちでノベライズを展開している『NARUTO ‐ナルト‐』の『サスケ烈伝』が去年ヒットしました。表紙はサスケとサクラなのですが、岸本(斉史)先生がこのふたりを描き下ろした表紙はすべての『NARUTO -ナルト‐』の本の中でこれだけなんです。ふたりがカラーで並ぶのはすごく珍しい。小説の内容的にも国内のみならず海外からも「ありがとう!」「まさかやってくれるなんて!」というメッセージが届きました。ノベライズを執筆された江坂純さんは語学が堪能でTwitterに英語での感想が来るとご自身でリプを返していらっしゃいましたね。烈伝シリーズはだんだん分厚くなり最新巻ではハリウッド大作のような星を救うスケールのアクションになって全キャラ出てくるという、すごい読み応えになっています。私は読みながら脳内で『アルマゲドン』のサントラが流れ出しました。

――(笑)。今も続いていて巻数が一番多いタイトルというと……?

千葉:『ハイキュー!!』ですね。各キャラ、各学校にファンがいる作品ですから、まったくネタ切れせずに続けられています。最近本誌で「2年後……」という時間を一気に飛ばす展開がされてみなさん驚かれたと思いますが、われわれからすると「その2年間のことを書ける!」。それは「週刊少年ジャンプ」編集長の中野(博之)にも言われました。もちろん読者それぞれがその2年のことを想像して楽しんでいらっしゃると思います。j BOOKSは「小説で書かれていることが公式の見解です」とまで強くは言いません。ただ「こんな話もあっていいのでは」くらいに受け取ってもらえればと思って作っています。

■「公式」感の追求

――でも公式感は大事にされていますよね?

千葉:私たち自身、その点には自負を持って制作しています。マンガ家さんの監修があり、絵も描いていただくという点に限らず、小説家も担当編集者も作品に思い入れがある人を選び、原作ファンに寄り添い、本当に喜んでいただけるものをつくることで公式感を最大化したい。

 小説まで買ってくださるのは想いの強いファンです。また、間近でマンガ家さんや編集部の苦労を見て「毎週あの熱量のマンガを作るのはどれだけ大変か」をひしひしと感じていますから、原作者ではない別の作家が書くものであっても「このキャラの言葉は本物だ」と読者が思ってくれるものを目指して作っています。

 ですからネットの反応は良いことも批判的なことも両方受けとめ、次に活かしています。「このキャラをこんな風に書いたら反響がよかった/よくなかった」は顕著にわかりますから。

――企画の立て方はどんなパターンが多いですか?

千葉:一番多いのはマンガ担当とノベライズ担当がやりとりをして出てきたネタを作家さんに話してプロットを出してもらう、というものですね。「もともと小説を書きたかった」というマンガ家さんもいて、積極的にアイデア出しをしてくださることもあります。

 私は今のj BOOKS編集部の中では新参者の方なんですね。私以上に社員3人、フリー4人のスタッフのほうが「j BOOKSはどうあるべきか」がよくわかっていますから、どんなかたちで出てきたネタであれ、作家と担当編集から生まれてきたものに対して私はなるべく口を出さないようにしています。編集長権限での却下はしない。

――j BOOKS作品は書店でコミックスと並べて置いてもらえるように発売日はコミックスと同時か1カ月違いになるべく設定していると聞いています。それって小説の内容の調整が難しくないですか? どこまで書いていいのかの加減が。

千葉:コミックス派の人がショックを受ける内容にならないように「どこまで書いていいか?」ということはマンガの担当に確認します。ただそれだけでなく、コミックスとの内容的な連動も意識しています。たとえば『鬼滅の刃』の2冊目では同時発売のコミックスでしのぶの急展開が描かれていましたので、小説版では彼女が子どものころの話を入れました。また、『約束のネバーランド』では「マンガではつらい展開が続いているから小説では楽しかったころを描こう」と方針を立て、みんながママと楽しく暮らしていた時期のこと、あるいはシスタークローネがシスターになるまでのお話などを書いたんですね。

 発売タイミングでどのキャラクターをフィーチャーするかは編集部発、先生発に限らずアイデアを出し合いながら決めています。

■j BOOKSはどう読まれているか?

――j BOOKS読者の年齢は?

千葉:各マンガの読者の平均年齢と近いと思います。ただ性別で言うと小説はマンガよりも女性読者が多いですね。キャラへの理解をより深めたいと思ってくださるのは女性なのかなと。実は『鬼滅の刃』の読者には小学生も多いですが一方で40代女性も多く、はじめは「子どもの分を買っているのかな?」と思いきや頑張り屋の炭治郎が母性をくすぐるらしく、ご本人が読んでいることも多いようです。逆に読者の平均年齢が低いのは『約束のネバーランド』ですね、中高生どころか小学生でも読んでいる子がいます。謎解き、パズル的な感じがよかったのかなと。もしも出せるとしたらみらい文庫でも『約束のネバーランド』は売れそうだと思っています。

――両方出ているタイトルもあるんですか?

千葉:はい、映画ノベライズ『斉木楠雄のψ難』のように両方で出して両方売れるタイトルもあります。みらい文庫は児童文庫棚、j BOOKSはコミックス棚に置いてありますから、読者が意外とかぶらないんです。

――j BOOKS作品の読まれ方の特徴は?

千葉:先ほども言った通り熱量の高い原作ファンが読んでくださることが多く、「編集部の中の人かな?」とわれわれが思ってしまうくらい一話一話について深くレビューを書いてくださる方もいます。最近ではソフトカバーの本でも学校図書館に入れてくれるようになりまして「学校で読んだ」「朝読で読んだ」という人も増えてきた印象があります。

――全国学校図書館協議会の図書選定基準が改訂され、昔は「並製(ソフトカバー)は不可」という一文があったのが削除されて児童文庫などが入るようになったと聞いています。

千葉:年頃の男子だと「文字ものなんて読みたくない」という声もあるでしょうが「観たかった映画のノベライズだから」といった理由で中高生男子が小説を手に取る入り口になれたらとも思っています。たとえば『DRAGON BALL』のノベライズ。実はj BOOKSでは一度もやってこなかったのですが、2019年の『劇場版ドラゴンボール超ブロリー』で初めてチャレンジしました。

――え? ブロリー相手に悟空とベジータがスーパーサイヤ人2! 3! ブルー! フュージョン! と姿を変えながら延々戦っている作品ですよね……?

千葉:映画では戦いながらブロリーが何を考えていたのかまではわかりませんが、心情を描ける小説の強みを活かしてそこをうまく掘り下げられたと思っています。男性にオススメしたい一冊です。

■編集部員それぞれが個性を活かす体制に

――千葉さんが2018年6月末に編集長になってから売上が伸びたそうですが、就任以降、何か取り組まれたことはありますか?

千葉:巻数を付けないようにしました。たとえば『ハイキュー!!』は小説がもう11冊出ていて、「11」とナンバリングされています。でも実はj BOOKSの作品はほとんどがどこからでも読める短編集なんです。キャラごとのサブストーリーやちょっとした日常を切り取った短編か中編が1冊に4、5本入っている、というものが基本です。それに「1」「2」「3」と付けてしまうと「1から買わないといけないのかな?」という感覚になってしまいます。ですから最近始まったものは数字を入れず、サブタイトルを入れて各巻ごとに差を付けるようにしています。

 ほかにあるとすれば、私が「週刊少年ジャンプ」編集部を経験していないから逆に俯瞰的に見られると言いますか、しがらみがないのが良いのかなと。それでいて偶然ながら「週刊少年ジャンプ」編集長の中野、ジャンプ+編集長の細野(修平)とは同期でして、企画の可否もその理由も率直に聞けるという。

――対編集部では?

千葉:私はスタッフそれぞれの動きには基本的に口を出さず、助けが必要なときに交渉や調整の手伝いをする、というスタンスです。

――交渉と言うと……。

千葉:たとえば社内調整ですね。j BOOKSは「週刊少年ジャンプ」作品の小説ならジャンプコミックスと同じサイズ、「ヤングジャンプ」作品の小説ならヤングジャンプコミックスと同じサイズという方針で本を作っていますから、棚がないんですね。そうするとオリジナルを出すときや映画のノベライズを出すときに困る。ですから弊社のオレンジ文庫から恋愛ものの新人賞受賞作を出したり、実写映画『かぐや様は告らせたい』のノベライズのときは「映画と原作のファン層は違うだろう」と判断してやはりオレンジ文庫から出させてもらったり、あるいはアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス3』のノベライズは集英社文庫から出しました。そういうときには私が各編集部へ話をしに行っています。

 それぞれの作品に最適なかたちで出せるように、また、それぞれ個性があって得意どころがはっきりしているスタッフが動けるようにするのが私の仕事なのかなと。

――編集部の雰囲気は?

千葉:雰囲気はいいですよ。本の編集部って雑誌と違って個人プレイが多くなりやすいんです。校了だって別々だし、ごはんだって声をかけないといっしょに行かないし。でもうちは自主性を重んじつつも「チーム」だと意識してもらいたいと思って、この前、私が声をかけてみんなで日帰りバスツアーに行きました。集合時間が朝早くて文句を言われましたが、最終的には楽しんでもらえたのかなと思っています。編集部員同士お互いの作品に対するお互いの意見やネット上の意見を共有したりしながら、みんながストレスなく仕事できるように動いています。

■謎の作家は作品に乗り移って書く

――本好きにも読んでほしいタイトルがあればぜひ教えてください。

千葉:最近では『呪術廻戦』は自信を持って推したいですね。私がもしノベライズの担当だったら五条悟だけをフィーチャーしてしまいそうなところを事務方のキャラで短編を1本書いてみたりと「そうきたか!」という意外性があり、「これを読んだらマンガがよりおもしろくなる!」ということが達成できた。

 それと手前味噌ながらやはり『岸辺露伴は叫ばない』『岸辺露伴は戯れない』の2冊ですね。露伴以外は基本的にスタンド使いは出てこないという荒木飛呂彦先生による『岸辺露伴は動かない』シリーズと地続きな世界観で、『世にも奇妙な物語』のようなスタイルのアンソロジーになっています。

――どういった点がオススメですか?

千葉:それぞれの作家が得意分野で勝負しているのがおもしろいんです。数学が得意な作家さんは方程式ものを書いたり、「荒木先生が書いたのかな?」と思うくらいイタコ的にキャラクターを口寄せして書かれる北國ばらっどさんのような作家がいたり。

 北國さんはノベライズをやる上で理想的な書き手で、最初から自然に「乗り移って書く」ことができた。その技術に舌を巻いて『呪術廻戦』を頼んだという経緯があります。遠方にお住まいで実は編集部員が誰も会ったことがない……という作家さんです。

――キャラが立ってますね(笑)。最後にこの記事の読者に向けてひと言お願いします。

千葉:「週刊少年ジャンプ」は作家さんも編集部員も常に現状に満足せず、慢心していません。「もっともっとできる」といつも思っている、熱くてマンガ愛が強い人ばかりです。それを知っていますから、私たちも忙しい作家さんに対して「監修してください」「カットを描いてください」とお願いするのは心苦しいのですが、納得して気持ちよく描いてもらえるよう、熱量では負けないつもりで本を作っています。

 j BOOKSではマンガや映画の関係者の「あいだ」に挟まって進めなければいけない本が多く、オリジナル作品を除けば担当と作家だけでは進められない大変さがあります。でも「このクオリティのノベライズを作れるのは自分たちだけだ、クリエイティブなことをしているんだ」とスタッフには誇りを持ってほしいと思っていますし、実際、皆が自信をもってそう言える編集部です。

 いろいろオピニオンを持っている人間が多く、編集部でnoteを運営して「この本はなぜこのデザインにしたのか」といったことを記事にしていますので、小説ともども、そちらもよければぜひご覧ください。

飯田一史

最終更新:2/25(火) 17:48
リアルサウンド

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