ここから本文です

暗殺を激白、英国人スパイの非情なサイバー戦争

2/25(火) 18:00配信

日経ビジネス

 英国人紳士と訪日の最終日に東京都内で再会した。記者の習性からか、つい口走ってしまった。

【関連画像】無人機を操る兵士。米英軍はスマホの位置情報を基に敵方要人の居場所を特定して無人機からミサイルを打ち込んだ(写真:John Moore / Getty Images)

 「これからしばらく会うことはないと思うので、最後に写真を撮らせてもらっていいですか?」

 「ダメです。身元が割れるようなことはしたくありません。記事では本名も伏せてください。過去にかたった偽名の1つであるケネス・マレンとしていただけますか」

 マレン氏と称するこの人物は女王陛下に忠誠を誓った英国の元諜報員だ。来日中に何度か会う機会を得た。聞けば1990年代半ばから英軍の諜報部門に所属し、その後、複数の英諜報機関を渡り歩いたという。インターネットの本格的な普及が始まった2001年ごろからは、ハッキングなどの手法を自ら開発し、実行したサイバー諜報活動の生き字引だ。

 サイバー諜報活動の世界では日本企業の被害が後を絶たない。三菱電機やNECなどがサイバー攻撃を受け、企業秘密を盗み取られていたことが2020年1月以降、相次いで発覚した。中国当局の管理下にあるハッカー集団の関与が疑われている。

 警戒すべきは非友好国にとどまらない。マレン氏によれば、友好国のサイバー部隊ですら日本を狙っている。パソコン内ののぞき見に始まり、スマートフォンを使った暗殺作戦に至るまで、サイバー諜報技術を進化させた当事者による貴重な証言に耳を傾けよう。なお、マレン氏のロングインタビューを拙著『サイバーアンダーグラウンド/ネットの闇に巣喰う人々』に収録している。

(聞き手は本誌・吉野次郎)

―諜報員になった1990年代半ばというと、まだインターネットも普及していなかった時期だと思うのですが。

マレン:新米の諜報員だったころはまだ昔ながらの電子機器でテロリストを監視する時代でした。自宅に盗聴器を設置して会話を盗み聞きし、クルマに追跡装置を取り付けて動きを追いました。留守中に居間のテレビに監視カメラを仕込んだりもしました。

 テロリストグループの幹部が自宅でひそかに女装している姿を盗撮し、「仲間に知られたくなかったら内通者になれ」と脅したこともあります。当然、密告はリスクを伴います。裏切りがバレた内通者が、仲間から拷問を受けて殺される様子を延々と電話越しに聞かされたこともあります。窮地に陥った内通者を助け出すことはありません。金銭で情報を売買していた間柄だと、割り切っていました。

―インターネットを駆使したサイバー諜報に乗り出したのはいつごろからでしょう。

マレン:2001年に米同時多発テロが発生してからです。当時、インターネットの普及が本格に始まっていましたが、ハッキングの技能を持つ人はほとんどいない時代です。先人がいないので、誰にも教わることができません。協力関係にある米国からコンピューターウイルスを取り寄せるなどして、テロリストの監視に使う方法を自分たちで編み出しました。まさに手探りです。自分はサイバー諜報の分野を切り開いた第1世代だと自負しています。

 同時多発テロを境に主な監視対象もアイルランド共和軍(IRA)などのテロリストからイスラム過激派に移っていきました。

1/3ページ

最終更新:2/25(火) 18:00
日経ビジネス

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事