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AIでよみがえった美空ひばりの衝撃~人生100年時代に新たな死生観が生まれる

2/26(水) 12:09配信

中央公論

対談:佐々木俊尚氏(ジャーナリスト)×島田裕巳氏(宗教学者)

●死んでいるのか生きているのか
佐々木)私はテクノロジーの進化は死生観を変えると考えています。
 昨年、テレビ番組「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」を見ました。この番組で取り上げられたAI美空ひばりの歌は年末の紅白歌合戦でも披露されましたが、後援会の年配女性たちが「本当にひばりちゃんがいる!」と泣くくらい、リアリティのある音声再現がされていた。またアメリカでは、AIが応答するチャットアプリ「Replika」が開発されています。これは親しい友人を交通事故で亡くしたロシア出身の女性起業家が、彼との過去の膨大なやりとりをAIに入れて学習させ、テキストチャットにしてみたところ、まるで彼が生きているかのように見えたところから生まれたと言います。
 このように、もはや死者は生き続けられるのです。バッハのいない世界でバッハの曲をゼロから作ることはできませんが、今のAIを使えばバッハっぽいクラシックの曲を作ることはできるし、没後にマイケル・ジャクソンの新曲を出すことも可能になりつつあります。

島田)昨年九月にグレン・グールドの演奏を、AIを使って自動ピアノで再現するコンサートがオーストリアで開かれました。
 今は、当人が生きているかどうかわからない時代に入っていると思います。従来のような葬式をしなくなっているから、その人が死んだという情報が入ってこない。生死がかつてほど明らかではなくなっています。
 NHKの大河ドラマで、ナレーションだけで登場人物の死を告げる「ナレ死」が注目されたことがありました。普通なら重要人物が物語の途中で死ぬと、死の場面を描くわけですよ。ところがもはや死がドラマの世界で重要性を失っている。それと同じことが現実にも、「喪中はがき死」のような形で起きている。数ヵ月のタイムラグで死を知らされる。

佐々木)そうですね。生と死のあいだ、あわいの部分がどんどん拡大していって、古代の感覚に戻っていく感じがします。先日Twitter社が、六ヵ月以上使われていないアカウントを停止するという方針を発表したら、亡くなった人のアカウントを消すのはけしからんという反応が殺到して、棚上げになった。MITメディアラボの石井裕さんは、亡くなったお母さんのbot(自動的に作業を行うソフト)を作り、彼女の短歌作品などを定期的に発信しているそうです。テクノロジーが関与すると、ますます生きているのか死んでいるのかわからなくなりますね。


●「宗教消滅」の時代
島田)佐々木さんの新刊『時間とテクノロジー』、非常におもしろかったです。テクノロジーの発達によって、人々から時系列の感覚が薄らいでいき、因果の物語から解き放たれた世界への可能性が生まれてきているとの指摘に頷きました。

佐々木)ありがとうございます。技術が進歩して、因果関係だけではない世界の成り立ちがAIなどによってわかってきている。その先の世界では、時系列の因果律ではなく、過去も未来も現在もなく、「生きよう」と思った瞬間に「生」はただ立ち上がるのだという直感的な認識の時代に変わっていくのではないか。だとしたらこれからどんな生き方をしていくべきなのか、価値観や人生観を考え直してみたかったのです。

島田)最近、死生観が根本的に変わったと感じています。再び「喪中はがき」の例になりますが、昨年はなんと106歳で亡くなったという報せがありました。一昨年は104歳が二通。「人生100年時代」は現実なのです。これまでの死生観は「いつまで生きられるかわからない」という現実に基づいていた。それが、百歳まで生きられる時代になった。
 百歳まで生きられるとはすなわち、病気も治るし豊かさもある程度実現している、そんな現世の価値を否定できないし、来世に期待する必要もないということです。あらゆる宗教は、現実世界が苦しいからせめて来世で、という願いに基づいて組み立てられてきました。その構造の根本が崩れ、宗教が役に立たなくなった。「宗教消滅」の方向に社会は急速に流れています。

佐々木)フランスでもキリスト教の信者が非常に減っていると聞きます。そもそも現代人は、つながりへの欲求はあるけれども、一方で抑圧を感じるという二律背反の状況に置かれています。もはやかつての王政のような目に見える抑圧は存在しません。でも逆にリベラリズム的な「こうあらねばならない」「自由なのだから頑張れ」という暗黙の抑圧に苦しんでいる。そうした抑圧から逃れつつもつながりは持ちたいと人々が思っているときに、キリスト教など伝統的な宗教の教義は、人の自由を縛る抑圧に転じているのでしょう。

島田)日本でも、平成時代に実は劇的な宗教消滅が起きています。届け出によれば、神道の信者は1500万人、既成仏教も2000万人減っている。新宗教では信者数が3分の1にまで激減し、消滅の危機に直面しているところもあるほどです。最も変化の緩やかなアメリカでも、およそ4分の1は無宗教と言われています。

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最終更新:2/26(水) 12:09
中央公論

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