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誰も見たことのない、香取慎吾の『顔』を見よ

3/3(火) 17:31配信

キネマ旬報WEB

誰も見たことのない香取慎吾を撮る

香取慎吾のアップが多い。しかも画面いっぱいに広がるほどの。
白石和彌監督作品「凪待ち」をDVDで見直してみて、改めて強く感じたことである。
「誰も見たことのない香取慎吾を撮る」。そんな意気込みでつくられたという本作がまず香取に与えたのは、彼がこれまでほとんど見せることのなかった『陰』の顔を持つキャラクター。ギャンブルにハマりそこから抜け出せず、その過程で周囲の人間に迷惑をかけながら、差し伸べてくれる手からも自分からも逃げる男、郁男、というのがそれだ。

郁男が根は善良で人の心がわかる人物だということは、冒頭で語られる川崎の印刷工場の同僚との交流や、その後に移り住む恋人の実家・石巻での生活の端々でさりげなく描かれはする。だが、もはやギャンブル依存症である郁男の表情のみならず全身から発せられるのは、自身を蔑む強烈な自己否定感。さらに、郁男のせいともいいきれないさまざまな困難を非情なまでに与え続けていくことによって、この物語はますます郁男の顔を、陰鬱な色合いで彩っていくこととなる。確かにこれまで一度として拝んだことがない顔。カメラがどんどん寄らずにはいられないほどの。しかしそれは『誰も見たことのない香取慎吾の顔だから』では、たぶんない。彼があの愛すべき慎吾ちゃんであることを完全に忘れさせる、郁男としてのときどきの真情がどの顔にも痛切に刻まれていたからだろう。

オーディオコメンタリーも充実。『やさぐれた男が持つある種の色気』

今回リリースされるDVDには、白石監督と香取慎吾、共演者のリリー・フランキーの三者によるオーディオコメンタリーが収録されているのだが、彼らが各重要シーンにおける香取の『顔』について感嘆するくだりは特に興味深い。さらにはリリー・フランキーが繰り返す、顔ばかりかその大きな体その他も含めて香取が放つ色気、つまり『やさぐれた男が持つある種の色気』に関するコメントは出色。本作における香取の仕事のみならず役者としての今後の可能性をも示すものとして、ぜひ耳を傾けていただきたい。

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最終更新:3/4(水) 9:52
キネマ旬報WEB

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