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日本ラグビー勝利の秘密は2072枚の「スクラム指導」スライド

3/4(水) 11:32配信

SmartFLASH

 2019年の師走某日。静岡県盤田市のヤマハ発動機大久保グラウンド。陽が落ちると、風が冷たくなってきた。からだをぶつけるヤマハの選手たちの表情は活き活きとして、独特の熱気がグラウンドには充満していた。

 フルコンタクトのラインアウトの練習中だった。日本代表のスクラムコーチを務めていた長谷川慎さんの甲高い声がとぶ。

「ゲームライク! ゲームライク!」

 試合のようにやれ、ということである。ゲームのごとく、チーム間の確認は素早く済ませ、ラインアウトの陣形をとろうぜ。本気で相手をつぶしにいけと。

 照明がつく。簡素な観客席にはパラパラとヤマハを応援するファンが陣取っていて、呑気な雰囲気が漂っていた。周りの木立から鳥の鳴き声が聞こえてくる。スクラムの練習に移る。

 8人同士がどんとぶつかる。レギュラー組のフォワード(FW)が押される。緑の芝がめくれた。すかさず、慎さんの声が響く。

「はい。待ったら負け、待ったら負け」

 なぜ、押されたのか。どこが悪いのか。「どうして?」。フォワードが円陣をつくって短いトークを始める。ひとつひとつのディテール(細部)の確認をする。もう、いっちょ。いいスクラムだった。

「オッケー。よくなったよ。よくなった」

 躍進した日本代表のスクラムを指導した長谷川慎コーチ。日本ならではのスクラム理論をつくり上げ、信念と愛情を持って選手たちに落とし込んだ。モットーが「選手の成長のスピードを上げること」。

 そんな慎さんに、スクラムについて話を聞いた。

――スクラムの指導は難しいでしょ。

「やっぱり、僕の理想とする位置に足を置いてもらわないとダメですね。8人が理想の姿勢をずっとキープするとか。スクラムを組みながら、右にいったり、左にいったり、前にいったり、うしろにいったり、上下したりしながら、足をどこに置いていないといけないとか。

 僕は映像を見せながら、話をするんです。選手は実際そういう風にやるとラクになっていくわけです。

 足の位置、最初はいろんなところに置いていたのを、あと3センチ、前に出してなどと言います。ひざが伸びているからきついんやって。もっとラクに組むためには、あと1センチ足を前に出したら、ひざの角度がこうなって、うしろのナンバー8が押してくれるよ、助けてくれるよ、と言います。

 みんながやってくれたらラクになるから、って。そうしたら、選手はやるんです」

――3センチって細かい指示ですよね。

「例えば、『3センチ』って言ったら、みんな5センチ動きます。1センチって言ったら、3センチなんです。ほんとうはね、1センチ単位ってそんな細かくは無理ですよ。

 ま、姫野(和樹=ナンバー8)とか、マジメだから、1センチではなく、2センチ動いてもいいですか、と聞いてくる。どうでもいいと(爆笑)。どうでもいい。『3センチ』と言ったら、あいつら5センチ、10センチ動くから、3センチ動いてほしい時には、『1センチちょっと前に出して』と言っていました」

――指導は精密機器の時計のごとく、繊細でした。過去の指導内容をデータ化したスライドは現在、2072枚にまで達しました。すごいものです。

「そうですね。とにかく言葉にして、映像見せて、やっていきました。パソコンで整理しました。スライドを抜粋して、自分でまとめてみると、2072枚になったのです。だから、つくった資料はもっと多いんです」

――じゃ、1万枚ぐらいはありますか。

「わからへんけど(笑)」

                 ※

 以上、松瀬学氏の新刊『ONE TEAMのスクラム 日本代表はどう強くなったのか?』(光文社新書)をもとに再構成しました。堀江翔太、稲垣啓太、具智元らが明かすシン・スクラム論!

最終更新:3/4(水) 11:32
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