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【裁判長の説諭】妻に介護され、迷惑を掛け続ける自分に耐えられず、自宅に放火した男。「死にきれなかった」と嘆く男に、妻は……?

3/14(土) 11:12配信

サライ.jp

取材・文/長嶺超輝

あまり知られていないが、裁判官には、契約や相続などのトラブルを裁く「民事裁判官」と、犯罪を専門に裁く「刑事裁判官」で分かれている。片方がもう片方へ転身することはほとんど起きず、刑事裁判官は弁護士に転身するか65歳の定年を迎えるまで、ひたすら世の中の犯罪を裁き続ける。

では、刑事裁判官は、何の専門家なのだろうか。日本の裁判所は「できるだけ裁判を滞らせず、効率よく判決を出せる」人材を出世ルートに乗せる。判決を片付けた数は評価されるが、判決を出したその相手が、再び犯罪に手を染めないよう働きかけたかどうかは、人事評価で一切考慮されない。

その一方、「人を裁く人」としての重責を胸に秘め、目の前の被告人にとって大切なことを改めて気づかせ、科された刑罰を納得させ、再犯を防ぐためのきっかけを作ることで、法廷から世の中の平和を守ろうとしている裁判官がいる。

刑事訴訟規則221条は「裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる」と定める。この訓戒こそが、新聞やテレビなどでしばしば報じられている、いわゆる「説諭」である。

連載初回となる今回は、若い頃から働き者だった男が病に倒れ、寝たきりになった状態で自宅を放火した事件の裁判で、裁判長が男に贈った説諭を紹介させていただきたい。

* * *

■突然の火災

男は床に伏せて、うねうねと複雑に婉曲する天井の木目模様をジッと見つめていた。
このままの生活を続けているのでは、妻に申し訳ないと思った。

硬くなった全身を必死で動かし、男は四つん這いで廊下へ出た。この生活に終止符を打たなければならない。そう覚悟したのである。

「家が燃えている」
近隣の住民から119番通報が入り、現場に駆けつけた消防士が男を救助し、懸命の消火活動を続けた。しかし、炎のめぐりが早く、あっという間に家を包み込んでいく。そして、壁や屋根がたちまち音を立てて崩れていき、あえなく「全焼」という結果となった。

ようやく鎮火した焼け跡へ捜査に入った警察は、早速異変に気づく。完全に焼け焦げた場所が不自然に広範囲にわたっていたからだ。ガソリンなどをまいて何者かが火を放った可能性が浮上した。その第一容疑は、燃えさかる住居から救助された男にかけられた。男は妻とふたり暮らしだったが、火災当時、妻は出かけていたからだ。

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最終更新:3/14(土) 12:34
サライ.jp

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