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自由社教科書「不合格」も問題は単純にあらず

3/25(水) 10:09配信

週刊金曜日

 2月21日、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)の高池勝彦会長らが文部科学省記者会で会見を開き、つくる会メンバーが執筆した自由社の中学歴史教科書が検定で不合格とされたことを明らかにした。

 自由社教科書が不合格とされたのはこれが初めてではない。ではなぜつくる会は検定結果公表前に会見を開いたのか。理由は義務教育教科書検定に関して2016年に行なわれたルール変更にある。

 それまで義務教育教科書については、いったん不合格とされた場合にも検定意見を付された箇所を修正したうえで70日以内に再申請することが認められていた。15年に結果が公表された検定でも自由社教科書は不合格とされ、再申請を経て合格している。だが16年3月の制度変更により、1ページあたり1・2箇所以上の検定意見がついた場合それらは「欠陥箇所」として扱われ、同じ年度内の再申請ができないことになった。今回の不合格はこの新制度が初めて適用された事例となる。

 つくる会によれば「欠陥箇所」とされたのは405箇所。自由社歴史教科書のページ数にあてはめると376箇所までの検定意見であれば再申請が可能であったが、それを29箇所上回ったために“一発不合格”とされたことになる。

 21日の記者会見後も、つくる会は公式サイトや月刊論壇誌、一般向け記者会見(25日)などで検定の不当性を訴えている。

【政権への忖度強まる恐れ】

 つくる会が問題視することの一つは、欠陥箇所のうち7割以上を占める292件が「生徒に理解しがたい表現」「生徒が誤解するおそれのある表現」との項目に分類される意見だという点だ。これは当該箇所が直ちに誤りとは言えないことを意味する。生徒の「理解」を盾にとって教科書調査官の主観による恣意的な意見をつけ不合格にしたのではないか、というのだ。

 292箇所の中には調査官の指摘に理があるケースも当然あるだろう。ただ、そのうち約1割で調査官が異なる判断をしていれば再申請が可能だったわけだ。つくる会が挙げた事例の一つに毛利輝元を関ヶ原の戦いでの西軍「大将格」とした箇所についた「輝元が関ヶ原で実際に戦闘に参加したかのように誤解する」との意見がある。これを不当だとするつくる会の主張に一理もないとは言い難い。

 不合格が報じられるとSNSではこれを歓迎する反応が見られた。新型肺炎対策の不手際や予定される習近平国家主席の訪日をめぐって右派の一部から安倍首相への批判が出ていたこともあり、まるで政治の潮目が変わったかのように受け取った人もいたようだ。

 しかし筆者はこのような反応に危惧を感じている。15年に自由社教科書とともにいったん不合格となった後に再申請で合格したのが、中学校歴史教科書で唯一、日本軍「慰安婦」問題について記述するなど個性的な教科書づくりを行おうとした学び舎の教科書だったからだ。16年のルール変更は両社の教科書に多数の検定意見がついたことがきっかけだと見られている。

 不合格となるリスクを避けようと思えば、各社はこれまで以上に文科省の意向を忖度した執筆方針をとらざるを得ない。安倍政権は14年にも政府見解がある事柄についてはそれに基づく記述とすることといった検定基準改定を行ない、教科書への統制を強めてきた。日本軍「慰安婦」問題や領土問題などについて政権の意に沿う記述をさせることが狙いだ。新制度は個性的な教科書をつくる試みをさらに困難にするものだ。

 不合格は「政権に対するクーデターというべき性格」(25日の会見における藤岡信勝副会長の発言)を帯びているとするような、つくる会関係者の主張を真面目にとりあう必要はない。だが現行の検定制度の危険性についてはこれを機会に改めて考えねばなるまい。問題のある教科書を教育現場から退場させるのは専門知と市民の良識によってであるべきで、検閲によるべきではない。

(能川元一・神戸学院大学非常勤講師、2020年3月6日号)

最終更新:3/25(水) 10:11
週刊金曜日

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