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大ヒット韓国ドラマ『愛の不時着』のヒーロー・ヒロイン像が新しい

3/25(水) 11:01配信

現代ビジネス

 優れたコンテンツは国境も言葉も、価値観も超えて感動を伝える。韓国ドラマ『愛の不時着』は、そんな作品のひとつだ。2019年12月~2020年2月にかけて韓国のケーブルテレビで放送され、局の最高視聴率記録を塗り替えた。日本でも今、Netflixで総合トップ3位(2020年3月24日時点)に入る人気である。

【写真】女優・夏帆が表現した「禁断の愛」

 パラグライダー事故で軍事境界線を越えてしまった韓国の財閥令嬢を、北朝鮮のエリート軍人が匿っているうちに恋に落ちる――。この設定から、多くの人は思うだろう。「非現実的だ」と。おまけにタイトルが気恥ずかしい。

 しかし、このドラマはマーケティングから伝わるものと実際の中身にギャップがある。

ただの「王子様がお姫さまを守る」…ではない

 表層は、社会主義国に生きる軍服が似合うハンサムなヒーローと、資本主義国に生きる美人の大金持ちが政治体制を超えて愛を育む話だ。強いヒーローは徹底的にヒロインを守る。北朝鮮のエリート将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、韓国の財閥令嬢で起業家のユン・セリ(ソン・イェジェン)を無事にソウルに帰すべく尽力し、彼女を守るために母国で軍事裁判にかけられ死刑になることもいとわない。

 これはまさに、王子様がお姫さまを守るおとぎ話の構図だ。ひとりの女を守るため、大きなものを敵にまわして戦う男――よく見るモチーフを徹底的にカッコよく描いていて、これだけでも、多くの視聴者は満足する。「すぐ、Netflixに入って!!」と私にこのドラマを勧めてくれた親友は、前半のあるシーンを指して「トム・クルーズよりカッコいい!」と評していた。

 ただし、このドラマで描かれているのは、強い男が愛する女を守り抜くという、伝統的な性別役割分担に基づく「恋愛」だけではない。

「僕、作る人 私、食べる人」

 リ・ジョンヒョクの献身と愛情は、ハリウッド映画のように派手なアクションより、むしろ静かで日常的な行動を積み重ねるシーンが心に響く。パラグライダーで不時着し軍事境界線を越え、勝手に北朝鮮に入ってきたユン・セリをどう扱うか。国境警備を担当する第五中隊を率いる彼の任務に照らせば答えは明らか。「抹殺するべき」だ。

 しかし、彼は彼女を殺さず、保衛部(秘密警察)に通報もしない。それどころか、自宅に匿い「食べものが欲しい」というセリの要求に応え、すぐに食事を作る。麺を打ち、茹で、スープを作り野菜と卵焼きを添えて出す。「私は1日2食、お肉を食べるの」と言われたら、貴重な食料から肉を出して焼いてやる。セリが二日酔いになれば「豆もやしのスープ」を作る。ソウルに戻りたがるセリが「来週は江南のカフェにいたい」と言えば、市場でコーヒー豆を手に入れ、自宅で焙煎してひき、長年使っていなかったネルドリップの器具を出してコーヒーを淹れてやる。

 頻繁に停電し、システムキッチンなどない北朝鮮の国境に近い村でこれらは大変に手間のかかる労働だが、それをジョンヒョクは眉一つ動かさずやってのける。それを時に部下である第五中隊の隊員たちが手伝う。セリは食べているだけのシーンが多い。まさに「僕、作る人 私、食べる人」である。

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最終更新:3/25(水) 11:01
現代ビジネス

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