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【文庫双六】巧妙な罠と意外な結末  異色のフレンチ・ミステリ――川本三郎

3/25(水) 8:00配信

Book Bang

【文庫双六】ニヒルかつ冷酷な世界で熱く求めた“無疵な魂”――野崎歓
https://www.bookbang.jp/review/article/613242

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 一月に死去したミステリ作家、藤田宜永さんが若き日、フランスのミステリを翻訳されていたとは知らなかった。野崎歓さんに教えられた。

 ちなみに藤田宜永さんの作品で好きなのは、一九三〇年代の東京を舞台にシトロエンに乗る探偵を主人公にした『蒼ざめた街』などのモダン東京シリーズ。

 あのハイカラな作風の背後にはフレンチ・ミステリがあったか。

 一般にミステリが盛んな国といえばイギリスとアメリカ。多くの文学作品を産んでいるドイツとフランスは、「ミステリ王国」と呼ばれるイギリスに比べるとミステリが少ない。

 最近でこそ『その女アレックス』のピエール・ルメートルが評判になったが、長くフランスとミステリは相性が悪かった。

 古くはガボリオ、ルブラン、ルルーもいたし、下ってボワロ&ナルスジャックもいるのだが(メグレもののシムノンはベルギー出身)。

 そんなフレンチ・ミステリ不在の時代に評判になったのは、カトリーヌ・アルレーの『わらの女』だろう。日本初訳は一九五八年。

 貧しい三十代の独身女性が思わぬことで大富豪と結婚する幸運に恵まれる。しかし、そこには巧みに仕掛けられた罠が。

 昨年、『その女アレックス』の翻訳者、橘明美さんによる新訳が出た。「悪」が勝つ異色のミステリだが今読んでも面白い。

 一九六四年に、ジーナ・ロロブリジーダ、ショーン・コネリー主演で映画化されたが、さすがに映画では悪が滅んだ。

 フレンチ・ミステリで若い頃に読んだ忘れられない逸品がある。

 フレッド・カサックの『日曜日は埋葬しない』。中込純次訳で一九六一年に早川書房から出版された。

 映画にもなっている。丸谷才一がエッセイ『深夜の散歩』で評価した。

 最後にみごとなどんでん返しのある出色のミステリ。早川書房が新訳で出してくれないだろうか。

[レビュアー]川本三郎(評論家)
1944年、東京生まれ。文学、映画、東京、旅を中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『小説を、映画を、鉄道が走る』(交通図書賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『今ひとたびの戦後日本映画』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』などがある。最新作は『物語の向こうに時代が見える』。

新潮社 週刊新潮 2020年3月19日号 掲載

新潮社

最終更新:3/25(水) 8:00
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